朝日新聞記者と懇談 指導と監査を混同「国民に誤解与える」――協会が指摘

公開日 2014年06月05日

新聞画像

協会・保団連は5月18日、5月11日付朝日新聞が1・2面に掲載した指導問題記事(写真)を担当した月舘彩子記者(特別報道部)と懇談した。

当該記事をめぐってはこの間、朝日新聞に対して、東京協会のほか、埼玉協会、神奈川協会が抗議と懇談の要請を行っている。当日は、保団連役員として宇佐美、田辺両副会長、武田、杉山、新井各理事が出席した他、東京協会・拝殿会長、埼玉協会役員らが同席し、指導の実態等について説明、懇談した。

懇談は毎日新聞の元記者の経歴を持つ杉山理事(福岡歯科)の司会で行われた。各出席者からは、「指導と監査が区別されていないなど、明らかに記述の誤りがあり、国民に誤解を与える」、「朝日が1面でこうした記事を掲載することの社会的影響力を考えてほしい」、「この記事に医療者は強い違和感を持つ。保険医に対し取材をしてほしかった」などの意見が述べられた。

そのなかで埼玉協会から、「指導」と「監査」の違いを法的根拠も合わせて説明。さらに「個別指導」における立会人の位置づけ、指導医療官の資質の問題、集団指導、集団的個別指導、個別指導の違いなどにも触れ、理解を求めた。

月舘記者は今回の記事について、「公正な指導を実施してほしいとの思いから記事にした。向いている方向は保険医協会の先生方と同じだと思っている」と発言した一方、取材先として厚生局や厚労省指導監査室の名はあげたものの、保団連や各協会、各医師会など保険医の側に対しての取材は行っていないことを明らかにした。

さらに、5月11日付記事に対し一般市民から意見が寄せられているものの一つとして「厚生局に情報提供をしても取り上げてくれないと訴える意見がある」と紹介した。これに対し、保団連側は、「厚生局各事務所には様々な情報が寄せられており、なかには名を名乗らない不確かなものまである。情報提供者が実名で、確度の高い情報であれば厚生局は対応している」と説明した。

また、保団連から今回の記事の掲載意図について、水面下で事前に厚労省と何かやり取りがあったのではないかと質問したところ、月舘記者は「厚労省と事前のやり取りは何もない」とし、指導を強化させることを意図したものでないことを明言した。最後に、保団連、各協会は取材に応じる準備があるので、医療記事を執筆する際の取材を強く要望して懇談は終了した。

協会は5月13日に、「記事への抗議と懇談を申し入れる要望書」を朝日新聞・担当記者宛に送付、引き続き、記者との懇談を求めている。

● 東京保険医協会「〔朝日新聞社宛〕5月11日の貴紙第1、2面記事『厚労省、半数の調査放置』 抗議するとともに懇談を申し入れます(2014.5.13)

「公正で正確な取材を求める」

浜野 博

医療の仕組み

浜野 博
(東京保険医協会 審査対策委員会委員長)

5月11日の朝日新聞朝刊トップに「厚労省、半数の調査放置―診療報酬不適切請求の疑い」と題した記事が掲載された。内容が事実誤認と無理解に基づいていることに多くの先生方は驚かれたのではないか。これが日本の大手新聞社が1・2面を使って書く記事だろうか。充分な取材と理解に基づく記事とは思えず、むしろ何らかの意図を持った「医者たたき」の感がした。

朝日新聞記事で紹介された「医療費のしくみ」 例えば1面に「医療費のしくみ」と題した図(図参照)があり、そのなかで「厚労省、厚生局」から「医療機関」に「←」があり、「不正請求がないか調査、指導する」とある。これが「個別指導」なのか「監査」なのか混同した表現になっている。「個別指導」なら複雑な保険診療の取り扱いやその請求事務等について懇切丁寧に周知徹底する行政指導であり、不正請求がないか調査するものではない。

即ち「個別指導」には質問検査権はない。診療内容や請求について明らかな不正、著しい不当が疑われる場合には「監査」が行われ、そこで不正について調査されることになる。このように「個別指導」と「監査」は明確に区別されるべきものである。

また個別指導の対象保険医療機関の選定には11項目 の基準があり、(11)に新規指定保険医療機関を対象とした新規個別指導がある(表)。

基準(10)には、「1件当たりの点数の高い医療機関(集団的個別指導からの移行分)」とあるが、これは単に高点数の医療機関である。高点数の原因として特定の疾病を治療対象として高額の検査をしていたり、外来の日帰り手術を多数行えばおのずと高点数になる。それがなぜ「診療報酬請求書が高額で過剰診療の可能性がある―などの基準をもとに不適切な請求をした疑いのある医療機関を抽出」という記載になるのか。

「高額請求」=「過剰診療」と断じるのは全くの事実誤認であり、医療費抑制策を掲げる国の方針を代弁しているに過ぎないではないか。 確かに選定基準(1)には、審査支払機関、保険者、患者(元従業員等を含む)からの告発等の情報により不正等含めて必要と認めれば選定できるとあるが、高点数(高額請求)には触れていない。記事はこの(1)と(10)を混同しているのではないか。公のマスコミであり意図的なものではないことを願う。

今後もシリーズで同様の記事が出るかも知れないが、公正公平で正確な取材に基づく記事の配信を重ねて希望する。

雹

(『東京保険医新聞』2014年6月5日号掲載)