公開日 2018年03月06日

政策調査部は1月25日、千葉大学予防医学センター教授の近藤克則氏を招いて、政策学習会「健康格差社会への処方箋―貧困がもたらす命の格差」を開催し、24人が参加した。近藤氏は、日本国内で2010~2017年にかけて約66万人を対象に調査活動を行ってきた。その結果、「地域や社会経済状況の違いによる集団における健康状態の差」=「健康格差」が日本社会に広がっていることが明らかになってきた。
千葉大学予防医学センター教授の近藤克則氏(写真)
近藤氏は、データと研究を蓄積することで、健康格差を「見える化」することの重要性を強調した。ヨーロッパでは、20年以上も健康格差対策に取り組んでおり、「経済成長のためにも社会保障や格差対策が必要」との一定の社会的合意がある。「見える化」によって、健康格差があると国民が気づくことによって社会や政治を変える「政治的意志」が生まれ、格差を是正すべきだとの社会的合意が形成されていくという。
OECDは2014年のワーキングペーパー「所得格差は経済成長を損なうか?」で、1985~2005年までの20年間の格差拡大が、1990~2010年の間の経済成長率にマイナスの影響を及ぼしたとの調査結果を発表している(図)。
また、5951万人を追跡した9つの縦断研究データをまとめて分析した結果、ジニ係数(所得格差)が大きい国ほど、高所得者も含めた国民全体の死亡率が高い傾向にあると報告。「格差は経済成長にとって必要悪」、「格差が大きい方が経済成長する」などの理論に根拠がないことを示した。
講演では、さまざま調査結果と共に、健康格差の実態を数多くの事例をもとに示された。また、健康格差対策の7原則(表)と共に、自治体や地域社会での取り組みが紹介された。
表 健康格差対策の7原則 |
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●始めるための原則 第1原則(課題共有) |
●考えるための原則 第2原則(配慮ある普遍的対策) 第3原則(ライフコース) |
●動かすための原則 第4原則(PDCA) 第5原則(重層的対策) 第6原則(縦割りを超える) 第7原則(コミュニティづくり) |
近藤氏は「保険医協会は、患者負担増に反対し患者に寄り添う姿勢を貫いてきた。これからも地域医療の担い手として現場の声を発信し続けていただきたい。国民のいのちを守る医師として出来ることから始めていきましょう」と述べ、協会活動にエールを送った。
(『東京保険医新聞』2018年2月25日号掲載)