【視点】終末期「ガイドライン」を考える

公開日 2018年06月19日

中村洋一理事

東京保険医協会 理事 中村 洋一

2018年4月の医療保険、介護保険同時改定では、医療介護の連携をさらに深めるように要請され、次いで高齢者の終末期で遭遇する最終段階における医療・ケアで「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の活用を数カ所で促されている。

本ガイドラインに記されている内容は一般論として至極もっともなことであろう。本人家族のみならず、医療介護関係者、必要に応じて社会生活に関わる専門家も交えて、十分な情報開示も行いながら検討を重ねるとしている。だが実際に取り組むとなると、現在行われているケアカンファレンスだけでは時間も労力も不足すると思われるほどに濃密な検討が必要である。実現したいと思う反面、多忙な関係者には無理だとも思わざるを得ない。

ガイドラインの狙いの背景には高齢者の増加に伴う入院入所などの社会的コストを減らすために、在宅療養環境を選びやすくするなどの思惑もあるように思える。入院日数の制限、特養などの施設の不足を補うためにもっと在宅で看取る場を増やすための環境作りとも取れる。例えば家族や関係者が慌てて急激な在宅移行をするなかで、人生の最終段階に来たと判断したら在宅看取りのために手順を踏み、医療介護関係者が看取りへの決断を支援しなければならない。

最終段階の医療とケアのあり方とは、一般には無駄な治療をせずケアと連携し緩和することを想定している。安楽死は想定していないと書かれているが、積極的な延命治療については書かれていない。

現実には入院日数制限のために、入院しても直ぐに次の施設探し、運良く自宅へ戻れば介護地獄が待っている状態である。また気管切開が必要な難病患者等は命の選択をガイドラインによって迫られるのではないか懸念がある。

もう一つの懸念は、現在在宅医療を担っているスタッフが若いために、判断が浅薄になるのではないか。例えば、ガン末期では治療法の選択や延命治療の有無なども教科書通りとなり経験豊かなベテランが入り込まないと、方針がエビデンス優先になりがちである。「点滴治療に延命のエビデンスはありません」など、特に在宅医療を担う若い医師にその傾向が出ることを心配する。

現状の診療報酬制度と不十分な教育、人材不足ではガイドラインを免罪符にして安易な看取りを増やすように見える。そうしないためには高齢者など要介護者の療養環境の変更にはもっと時間的余裕が欲しいと思う。それにより、最終段階における本人や家族の覚悟、その決定を支援する関係者の努力を引き出せると思う。

本ガイドラインはその人が生きてきた過程や、残される家族友人関係者にも納得の場を提供できるようにすると言う崇高な使命を持っている。だからこそ画一的な価値観に捕らわれず、十分な時間をかけた議論ができるように、医療介護体制の更なる充実、在宅医療政策の裏付けこそが必要であろう。

(『東京保険医新聞』2018年6月15日号掲載)

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