新しい基準病床数「区西南部」と「区西部」、一転して病床過剰に

公開日 2018年05月31日

これまで“病床不足”だった「区西南部」と「区西部」が、一転して“病床過剰”圏域となることが分った。2018年3月末に発表された次期「第7次東京都保健医療計画」で、新しい「基準病床数」が、「区西南部」で255床、「区西部」で2257床引き下げられたためだ(下表)。

表 新旧・基準病床数と既存病床数の比較
医療圏 区市町村 既存病床数(A) 旧基準病床数(B) 旧差(A)‐(B) 新基準病床数(B’) 新差(A)‐(B’)
区中央部 千代田、中央、港、文京、台東 13400 5258 8142 5827 7573
区南部 品川、大田 7976 8091 ▲115 8112 ▲136
区西南部 目黒、世田谷、渋谷 9756 9847 ▲91 9592 164
区西部 新宿、中野、杉並 10480 10548 ▲68 8291 2189
区西北部 豊島、北、板橋、練馬 14166 14218 ▲52 14684 ▲518
区東北部 荒川、足立、葛飾 9616 9617 ▲1 10077 ▲461
区東部 墨田、江東、江戸川 8327 8329 ▲2 8993 ▲666
西多摩 青梅市、福生市、あきる野市、羽村市、瑞穂町、日の出町、檜原村、奥多摩町 4143 3017 1126 3219 924
南多摩 八王子市、町田市、日野市、多摩市、稲城市 10195 10144 51 10872 ▲677
北多摩西部 立川市、昭島市、国分寺市、国立市、東大和市、武蔵村山市 4165 3844 321 4108 57
北多摩南部 武蔵野市、三鷹市、府中市、調布市、小金井市、狛江市 7336 7285 51 6913 423
北多摩北部 小平市、東村山市、西東京市、清瀬市、東久留米市 5485 5252 233 5554 ▲69
島しょ部 大島町、三宅村、小笠原村ら9町村 80 177 ▲97 249 ▲169

「基準病床数」と現在の病床数(以下「既存病床数」)を比較して、“病床過剰”の圏域は、原則として新規病床の開設ができない。反対に“病床不足(表中▲)”の圏域では、制度上は必要に応じて新規に病床整備を行うことができる。

すでに他県では「基準病床数」見直しの影響が出ている地域も生まれている。神奈川県逗子市では“病床過剰”になったために、かねてより計画されていた総合病院の誘致が困難となっている。

一方、これまで病床過剰圏域だった「南多摩」と「北多摩北部」は、今回の見直しによって「基準病床数」が大幅に引き上げられたため、“病床不足”の圏域となった。

表の「既存病床数(A)」は1年前の2017年4月1日の数字のため、最新の数字と比較すると基準病床数との差はさらに大きくなる見込みだ。

地域医療構想との整合性が見えない「基準病床数」

「基準病床数」には「一般病床」と「療養病床」の内訳が示されていない。東京都が2016年8月に取りまとめた「地域医療構想」では、2025年の将来を見据えた必要病床数を試算しており、これによると、4機能の合計(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)で約8,200床の増床となっている。このうち“慢性期”病床については、在宅に退院させることを念頭に約9,400床削減という数値が示されていた。これらの数字は、新しい医療計画の本文中にも参考として掲載されているが、地域医療構想の飛び抜けた試算と、今回の「基準病床数」に、どのような“整合性”が採られたのか、全く不明だ。

都民が必要とする病床は確保できるのか?

病床再編の動向は、決して病院だけの問題ではない。外来や在宅で療養する患者が急変時に必要な入院医療を確保できるのか。家族介護を支援するレスパイトのための病床も必要である。地域によって医療資源に限りがあり、24時間365日の「在宅医療」体制も医療従事者の尽力と介護者・家族の努力で、辛うじて支えられているのが現状だ。

地域医療のあり方を左右する病床数を国の計算式に従って算出しただけというなら、あまりにも無責任すぎる。都民のいのちと健康に責任を持つ東京都は、医療現場や実際に医療を受ける都民に対して、十分に説明する責任がある。

(『東京保険医新聞』2018年5月25日号掲載)