【視点】世界の再エネ発電コスト低下と日本の課題

公開日 2018年07月10日

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
歌川  学

今世紀後半に人為的温室効果ガス排出をゼロにする「パリ協定」を受け世界の温暖化対策が強化、その柱である再生可能エネルギー(以下「再エネ」)が拡大、世界も先進国も電気の約4分の1が再エネになった。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の再エネコスト低下報告を見ながら、日本の課題を考える。

再エネの拡大

世界の再エネのエネルギー比割合は約13%(1990年、2015年共)、電気比割合は1990~2015年に19%から23%(2017年に25%)、先進国の再エネのエネルギー比割合は6%から10%、電気比割合は17%から23%に拡大した。水力以外再エネ電力(風力・太陽光等)割合は世界で1%から7%に、先進国で2%から10%に急拡大した。再エネ設備は2008~17年に2倍、太陽光は26倍、風力は4.5倍に増加した【図1】。

180525_02_再生可能エネルギー 世界の設備容量の伸び

低下する世界の再エネ発電コスト

IRENAによると再エネ発電のコストは世界で低下、2017年に火力発電の発電コスト約5~17セント/kWh(約6~19円/kWh)に対し、水力発電5セント/kWh、陸上風力6セント/kWh、バイオマスと地熱も7セント/kWhでこれらは火力の下限近く、太陽光も10セント/kWh、洋上風力も14セント/kWhと平均は火力のコスト領域まで下がった。太陽熱集熱発電は22セント/kWhだが今後コスト低下が予測される。

太陽光は2010~17年に設備費が3分の1に低下、設備利用率が2割向上、相乗効果でkWh比コストは4分の1に低下した【図2】。

180525_02_平均発電コスト

太陽光パネルや風力発電機等の工業製品は累積生産量が2倍になればコストが2割低下する経験則があり、導入増でコストも低下する。建設費も導入拡大で経験を積めば低下していく。蓄電池大量導入はとくに想定されていない。

IRENAは2020年頃に陸上風力は5セント/kWh、太陽光は6セント/kWh、洋上風力と太陽熱集熱発電は6~10セント/kWhに低下、火力はコスト増で、再エネが火力のコストを下回ると予想する。

再エネコスト低下と再エネ普及・温暖化対策

「パリ協定」で脱炭素・再エネ100%化を展望する研究も進み、省エネと再エネ普及が対策・政策の柱となり、火力発電は縮小に向かっている。

火力発電はコストで更に不利になる。IEA(国際エネルギー機関)は2030年に化石燃料価格が16年比1・2~2倍に上昇と予測する。送電網に燃料費の安い順に電気を受入れるルールで、バイオマス以外の再エネ電力は燃料費ゼロで最優先、原発は次、火力は後回し、低需要の季節・時間帯は再エネで多くを賄い、火力コストは設備利用率低下と化石燃料値上がりで更に上昇する。

ビジネスも変化、世界の発電所新規設備で量でも金額でも再エネが半分以上を占め、再エネ産業は世界で2016年に約980万人雇用の大きな産業に成長した。消費側で再エネ100%目標の企業が増え(例えばREI100グループ)、今後再エネ利用を取引の条件にする所も増えるだろう。自治体が再エネ100%目標で公社・地域電力小売会社が企業・家庭に再エネ電力を供給する例も見られる。年金基金やファンドは化石燃料投資から撤退、金融も化石燃料融資に慎重になった。

コスト低下、政策強化、市場変化で多面的に再エネが拡大している。

日本の発電コスト比較

日本でも2012年導入の固定価格買取制度で太陽光設備は5倍に増加、2010~17年にコストは4分の1に低下した。ただし中国の発電コスト比では1・8倍だった。パネルや機器価格は大差ないが、建設費等国内費用が異なる。太陽光とバイオマス以外の再エネは余り増えず、コストも下がりにくい。

日本の今後の発電コストについて、多くの研究で今後再エネ普及が進む場合と火発・原発依存が続く場合を比較、当面は余り変わらないが2030~2040年以降は対策をした方が安くなると予想されている。また省エネが進まず多消費のままなら同じ単価でも総額は大きくなる。

再エネと原発・火発の発電コストの比較図【図2】に、日本の原発のコスト(「下限値」約10円/kWhが経産省・総合資源エネルギー調査会で示されている)を示した。原発は動かなくても維持費がかかり、2016年度の設備利用率5%では発電コストは100円/kWhを超える。先進国の原発は安全対策費が高騰、日本でも追加安全対策工事費が高くなり、万が一の事故対応の保険的仕組みの費用も上がる。火力発電の燃料費上昇と稼働率低下が日本でも予想される。

今後日本でも再エネ普及進展で発電コストが下がると予想され、原発・火発では上昇、短期あるいは中期で逆転していく。

日本の課題

日本でも脱炭素社会とそれを展望した省エネ・再エネ対策が求められる。日本で2030年にCO2を40%以上削減可能、2050年に再エネ100%、あるいはCO2排出量を90年比80%以上削減が可能、投資コストは光熱費減で回収可能との研究もある。

国の政策では2050年目標は「温室効果ガス80%削減」(基準年定めず)だが、実現後の社会ビジョンの違い、実現のための政策などで大きな差があり議論が続いている。

再エネ普及にあたりコスト以前に持続可能性は前提である。日本ではバイオマス発電で地域資源でなく輸入燃料特にパーム油(食料用、洗剤等に使用)、パーム椰子殻(廃棄物)を輸入し発電用燃料にする設備申請が突出し問題になった。バイオマス以外も地域の環境保全、土地利用、合意形成など課題がある。地域の諸課題を解決するには地元寄与も必要である。地域外の主体が多くの大規模発電所を建設・運用し、この場合地元には売電収入もなく、地元企業への工事受注やメンテナンス発注も少ない傾向がある。

その上で脱炭素に向け再エネを普及させコストも低下させるための課題を述べる。ここでは電気に絞って述べる。

日本の政策の2030年度の電力再エネ割合はOECD諸国の2016年実績である。高い目標と実効的政策で普及を進めるとコストも下がる傾向にある。

日本では価格情報は企業に見積もりを取らないとわからず、情報共有化・相場観形成が進んでいない。中立の専門的相談窓口、中立の技術アドバイスも課題である。

日本も再エネ電力優先接続ルール(再エネ発電所を優先的に送電線に接続)、優先給電ルール(再エネの発電を優先受入)があるが、送電線接続で負担がある。送電線の年平均利用率は低いのに停止中原発、短期間のみ稼働の石油火力、普段は出力の小さい太陽光・風力等も含め全発電所が1年中最大出力で発電する前提で、発電所接続には新規送電線・変電所が必要だとして建設費等の負担を求めてきた(注・制度改正検討中)。また送電線接続後も新しい再エネ発電所を無償で長時間止めるのを可能とする制度運用があり、再エネの設備利用率低下の可能性がある。実質的優先ルール確立と共に、変動する太陽光・風力を、正確な気象予測をもとに使いこなし、火力調整、揚水発電活用、地域間送電線活用、夜間需要の昼へのシフトとデマンドレスポンス等、海外で様々活用されている多様な運用技術・ノウハウが求められる。後押しのための制度の課題もある。

日本でも普及を進め、脱炭素化準備、コスト削減、光熱費流出減、同時に地元主体の関わりを増やし地元経済効果・雇用を高め地域発展・人口減緩和など地域の社会的課題と両立させたい。

(『東京保険医新聞』2018年5月25日号掲載)

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