公開日 2018年08月13日

東京保険医協会 副会長
吉田 章
被保険者証資格のオンラインでの確認が2020年8月から予定されている。
原則として、被保険者証を使わず、マイナンバーカードのみで窓口での資格確認を行うことになる。その前提として、現在、後期高齢者を除き、世帯単位で付番されている被保険者番号を個人単位化する。
保険者は世帯単位の被保険者番号の末尾に二桁の番号を追加し、個人を識別できるようにして、マイナンバーと対にして社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)が共同で運営するオンライン資格確認センターに登録する。管理は同センターが一元的に行うことになる。なお、この被保険者番号は、マイナンバーカードが普及するまでの間、暫定的にオンラインで資格確認するために使用することも検討されている。
メリットとデメリット
(1)メリット
【厚労省側から】
1.資格喪失後の受診に伴う事務コスト等の解消
2.高額療養費限度額適用認定証等の発行業務等の削減
3.特定健診結果や薬剤情報を照会できる仕組みの整備
4.保健医療データの分析の向上
(1)デメリット
【患者側から】
1.原則としてマイナンバーカードを窓口に出さねばならない
2.マイナンバーカードを持っていない場合、新たに発行してもらう必要
現在発行されている被保険者証は約8700万枚、対して交付済みのマイナンバーカードは1367万枚(2018年3月現在)。
7400万人の国民が新たな発行対象になる。マイナンバーカードを持ちたくない場合でも被保険者証は必要であるため、持たざるを得ない。
【医療機関、薬局から】
1.すべての診療所等にオンライン設備が必要
レセプト電子請求用の回線が想定されているが、2017年3月現在、43・2%がオンライン請求をしていない。しかし、オンライン請求をしてなくても被保険者証確認は必要だ。
1.カードリーダー、レセコンの改修が必要
3.回線事故が生じた場合、確認不能
4.往診時の対応が未定
5.窓口で取り違えたときの混乱
6.ウイルス侵入等のセキュリティの問題
セキュリティ確保のため院内ネットワークを閉鎖的にしていても、オンラインで確認した保険資格を電子カルテに自動転記する仕組みを取り入れれば、外に対して常時開放されることになる。
【その他】
1.システム維持のコスト
全国では救急を含めて24時間、医療は行われている。被保険者証の確認も24時間必要だ。それを可能にするためのコストは現在の粗い試算では年間数十億円で、導入によるコスト削減と見合う程度となっているが、信用性は疑問である。
2.オンライン資格確認システムのクラウド化
このシステムの中間サーバーはクラウド化されることになっている。セキュリティ上の危険性が増大することが考えられる。
医療用(統一)IDとしての被保険者番号
政府は日本再興戦略の一環として、公的個人認証や個人番号カードなどマイナンバー制度のインフラを活用して、医療等分野における番号制度を導入するとしている。そのため、まず、早期に医療保険のオンライン資格確認システムを整備し、医療機関窓口においてマイナンバーカードを健康保険被保険者証として利用することを可能とし、医療等分野の情報連携の共通基盤を構築するとしている。
具体的には、このシステムには各保険者から特定健診データが、レセプト情報から薬剤情報が抜き出され、被保険者番号で集積され、それらはまず、保険医療機関、薬局で照会できるようになる。さらに医療費情報も加え、マイナポータルや民間PHR(Personal Health Records)サービスを通じ、個人も照会できるようにするという。また、これらのデータは匿名化した上で国に登録することも考えられている。
それだけではない。①医療機関・介護事業者等の連携(地域レベル、複数地域間での連携)、その発展としてのEHR(健康情報基盤)や、②健康・医療の研究分野での利用などでも医療用IDが必要となるが、これらにも被保険者番号の使用を勧める提言が出されている。
もちろん、別の医療用IDも検討されてはいるが、そのIDも支払基金・国保中央会が住民票コードからマイナンバーのインフラを利用し生成するのが望ましいとされており、いずれにしてもマイナンバーと結びついた統一番号がオンライン資格確認システムによって管理されることになる。
統一番号による一元管理の問題点
一元管理された番号に医療情報を集積することは、マイナンバーと違う番号だとしても危険ではないのだろうか?全国統一番号に機微性の高い医療情報を集積、利用することの危険性は医師会他が警告しているが、さらに、これらの番号はマイナンバーと1対1で対応しており、紐付けも不可能ではない。オンライン資格確認のインフラは全国統一番号で医療情報を利用するインフラを提供し、ひいてはマイナンバーに医療情報をつなぐインフラとなると考えられるだろう。被保険者証のオンライン資格確認は資格確認にとどまらない。制度推進の動きは強いが、その前に、功罪を十分議論する必要がある。
(『東京保険医新聞』2018年7月25日号掲載)