公開日 2018年12月25日
メディアの役割は権力の監視、チェック
政策調査部は10月13日、望月衣塑子氏(東京新聞 社会部記者)を招き、「メディアは権力とどう向き合うべきか」をテーマに政策学習会を開催し63人が参加した。はじめに、須田昭夫副会長が「現代はポスト・トゥルースの時代と言われているが、講演を伺って少しでも真実を見極める力を養いたい」と挨拶した。望月氏は、東京・中日新聞に入局後、千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材。出産、育休を経た後、武器輸出に焦点を当てた取材を開始した。
安倍政権のもとで武器輸出を解禁
戦後、日本は憲法9条の下で「戦争しない国」を堅持してきた。1967年4月の国会答弁で、佐藤栄作首相が「武器輸出三原則」を表明し、以降、その時々で例外規定を設けてきたものの、日本は一貫して、武器輸出には慎重な姿勢を取り続けてきた。
しかし、2014年4月1日、第2次安倍内閣のもとで、「武器輸出三原則」が撤廃され、新たに「防衛装備移転三原則」が制定された。「防衛装備移転三原則」は、日本の安全保障や平和貢献・国際協力に資する場合には移転が認められ、実質的に武器の輸出入が解禁された。
その後、アメリカからの武器購入費用は増加し、2019年度予算の概算要求では6,917億円に達した。また、現行のODA(政府開発援助)は経済開発援助が目的であるため、武器輸出に用いることはできない。そのため2017年10月、官邸は財務省に対し、武器輸出にも活用できるODAの仕組みを作るよう指示した。
国のこのような政策の下で、防衛企業も戸惑っている。武器輸出に関わる企業の幹部からは「現状では、武器製造に関わる技術であっても流出を防ぐ手立てがなく、リスクを企業自身が負わなければならない」「軍事に携わっているということで、企業の評価が下がるというリスクは取りたくない」といった声が上がっている。
軍事より暮らしに予算を
安倍政権において、防衛予算は過去最高を更新している。2019年度防衛予算の概算要求額は5兆2,986億円で、2018年度予算(5兆1,911億円)比2.1%増となった。ただし、例年の予算に含まれる米軍再編関連経費2,200億円超が金額を示さない「事項要求」扱いとなっており、実質的な概算要求額は5兆5,000億円を超え、2018年度予算比の伸び率は6%を上回っている。
また、導入を決定している地上配備型弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」は、総額約4,600億円とも試算されている。これだけの予算があれば、20万人に対して月4万円の給付型奨学金を4年間支給することができる。望月氏は、北朝鮮をめぐって南北首脳会談および米朝首脳会談が開催されたことにふれ、憲法9条を生かした平和外交を行い、徒に軍事費を増やすのではなく、医療・福祉・教育などを充実させるべきと訴えた。
メディアの果たす役割
ジョージ・オーウェル氏(イギリスの作家、ジャーナリスト)が「ジャーナリズムとは報じられたくないことを報じることだ。それ以外のものは広報に過ぎない」と述べたように、メディアの役割は権力の監視、チェックである。
国際NGOの国境なき記者団が世界180カ国・地域を対象として毎年発表する「世界報道自由度ランキング」における日本の順位は、2010年には11位だったが、2018年は67位となった。この状況でも国民が知るべき情報を報道できるように、他社の記者とも勉強会を開催し、「自分が権力と対峙する位置にいるか」「疑問や疑念が自分のなかで解消できたか」「どうすれば力の弱い多くの人々が幸せになれるのか」という視点を大切にしながら日々取材に臨んでいる。
望月氏は、最後に「私は失望するといつも思う。歴史を見れば、真実と愛は常に勝利を収めた。暴君や残忍な為政者もいた。一時は彼らは無敵にさえ見える。だが、結局は亡びている。それを思う」というガンジーの言葉を紹介し、講演を締めくくった。
(『東京保険医新聞』2018年11月5日号掲載)