救急医療シンポジウムを開催-救急搬送の在り方 多方面から報告

公開日 2019年09月02日

 病院有床診部は7月20日、第10回救急医療シンポジウム「地域包括ケアとあるべき救急搬送の姿―循環器疾患に対する効果について検証する―」を開催した。

 シンポジストは、①有賀徹氏(独立行政法人労働者健康安全機構理事長)、②幡芳樹氏(医療法人健心会 みなみ野循環器病院院長)、③行本理氏(都福祉保健局医療政策部救急災害医療課長)、④江原浩仁氏(東京消防庁救急部救急医務課長)の4氏。医師、看護師、ケアマネジャー、消防士等30人が参加し、細田悟病院有床診部長の司会進行で、救急医療と地域医療について意見を交わした。


▶重要なのは地域に密接な民間医療機関の活動

 有賀氏は、社会のセーフティネット、地域包括ケアについて説明した。

 2035年には高齢単身世帯が3割に及ぶと予想されるが、救急搬送の増加、生活困窮に陥る人も増える可能性がある。問題になるのは孤独死で、国の制度は家族がいることが前提であるため、単身高齢者の孤独死が想定されていない。突如社会問題化するのではないかと懸念を述べた。

 都道府県別の医療機関への救急搬送の官民別割合は首都圏、関西圏、福岡県では民間が多くの患者を搬送しており、こうした地域では軽症患者等、緊急性の低い患者を受け入れることで消防救急車の適正使用につながると期待できる。今後、地域に密接な民間医療機関の活動が地域包括ケアを推進する上で重要だとした。高齢化が進む中、広域からの患者を広く対象とする垂直連携と、在宅・介護と病院の水平連携が必要になるとの見解を示した。

▶循環器疾患の中でも分業

 幡氏からは、八王子の循環器救急医療の現状について報告があった。

 八王子市の受入れ状況では東京都の平均を上回っており、応需率は良い方である。心筋梗塞・心不全等の患者を迅速に搬送するための仕組みであるCCUネットワークに幡氏の医療機関は入っていないが、CCUネットワークの対象とならなかった患者を受け入れる役割を果たしており、循環器疾患の中でも分業が行われていること、搬送される患者は圧倒的に高齢者が多く、冬季に多い傾向があることを強調した。

 心電図やCT画像などを基に具体例を説明し、迅速で確実な判断が現場では求められるが、苦しむ搬送患者を前にすると実際はかなり難しいと述べた。在宅医療の効果についてもアメリカでの研究を例に挙げて言及。患者に寄り添いながら生活指導をすることで循環器疾患による再入院を減らすことができるとの見解を示した。


▶東京ルール事案は減少傾向

 行本氏は、主に東京都保健医療計画の中に位置づけられている救急医療について説明した。

 医療計画の中では「救急医療の東京ルールの推進」として(Ⅰ)救急患者の迅速な受入れ、(Ⅱ)トリアージの実施、(Ⅲ)都民の理解と参画、が定められている。

 昨年のみ、熱中症、インフルエンザの流行により、東京ルール事案による搬送件数が増加したが、開始した2009年以降、東京ルール事案件数は年々減少しており成果が出ている。

 東京都保健医療計画の中で、「心血管疾患」が位置付けられており、心疾患についての予防、専門的医療体制の確保、早期退院・社会復帰の支援を掲げている。CCUネットワークについては、心血管疾患患者の迅速な専門医療機関への搬送等を目的として発足したこと、都医師会、東京消防庁、都福祉保健局で構成していること等の説明があった。


▶増える救急出場件数

 江原氏は、救急出場件数の推移を示し、2015年は1日平均出場件数2052件だったのに対し、2018年は1日平均出場件数が2241件と増加しており、救急隊の数を増やすことで対応していると報告した。2018年は熱中症の患者が多く、最多出場件数上位10件をすべて更新した。熱中症は屋内で起こることが多く、高齢者の入居施設では特に注意するよう呼びかけている。

 搬送内訳では、全体の7%ほどが循環器疾患の患者であり、心不全が最も多く、不整脈、狭心症、心筋梗塞と続く。全搬送人員の内訳では、高齢者の重症度割合が高く、65歳以上では73・3%を占めることが報告された。

 参加者からの「単身高齢者で認知症の患者は、全体像が見えず、救急車を呼び、どこに搬送していいのかがわからない」という質問に対し、有賀氏は「病態に応じて患者を搬送するという運用ではなく、生活状況に適した機関に搬送するような発想の転換が必要になるのではないか」、江原氏からは「消防救急は生活から急性期医療への垂直連携の部分として使っていただきたい」と答えた。

 参加者からは救急搬送時に延命措置を希望しない患者への搬送中止問題等についても質問や意見が出た。その他、看護師、ケアマネジャーからも日常の診療現場に即した発言があり、幅広い領域で意見を交換した。

 

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(『東京保険医新聞』2019年8月25日号掲載)