乳腺外科医高裁 有罪判決に抗議する

公開日 2020年08月07日

乳腺外科医高裁 有罪判決に抗議する 

 

 

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 「不当判決」の報を受け、支援者たちの間に怒りの声が広がった(7月13日、東京高等裁判所前)


 準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医の控訴審で、東京高裁(朝山芳史裁判長)は7月13日、無罪とした一審・東京地裁判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を言い渡した。判決後、弁護団と共に記者会見した外科医師は「判決に怒りと憤りを覚える。私は無実です。一度壊れた生活をここまで立て直してきたのに、再度壊されることに憤りを覚える」と話した。弁護団は不当判決として即日上告した。

 判決は、一審判決(2019年2月20日)を全面的に否定するものだった。一審判決の特徴は、①術後せん妄の可能性が否定できないとしたこと、②警視庁科学捜査研究所(科捜研)の鑑定結果について、科学的価値を強く否定した点にある。

 しかし、控訴審判決では「(被害を訴える女性Aは)せん妄状態に陥っていた可能性が十分あり、せん妄に伴って性的幻覚を体験していた可能性も相応にある」との一審での証言を「信用性は大きく損なわれる」とした。そして、「せん妄に陥っていた可能性はあるものの、せん妄による性的幻覚を見たという可能性はなく、被告人によるわいせつ被害を訴える原告の証言の信用性に問題はない」という検察側証人(井原裕・獨協医科大学埼玉医療センター教授)の証言を採用。「Aがせん妄状態にあり、LINEメッセージを打つことは、手続の記憶として意識的な処理なしに自動的に行えるから、せん妄状態であっても可能であって、Aが幻覚であった可能性が高い」という弁護側証人(大西秀樹・埼玉医科大学国際医療センター教授)の証言を、「信用性が低い」として退けた。

 科捜研の鑑定結果については、証明力が高いとした。一審では、鉛筆書きで数カ所消しゴムで消した跡のあるワークシートを鑑定証拠として認めず、DNA量が多く検出されたというDNA定量検査のデータがすべて破棄され、再鑑定が不可能になっていること等を示し、科捜研の鑑定や検査がずさんで証拠価値がないことを指摘していた。しかし控訴審判決では「検証可能性の確保が科学的厳密さの上で重要であるとしても、これがないことが直ちに本件鑑定書の証明力を減じることにはならない」とした。

 判決後、協会の須田昭夫会長と佐藤一樹理事は司法記者クラブで記者会見を行った。須田会長は、「判決文(判決要旨)を読むと、根拠が示されておらず、論理にかなり矛盾がある。最初から有罪にするという意思をもっての判決ではないか。裁判官は術後せん妄を全く理解していない」と批判した。佐藤理事は「一審の判決は非常に丁寧な判決だったが、本日の判決は一審判決を全否定し何の考慮もなかった。せん妄の専門家ではない検察側の証人の証言を一方的に採用し、国際基準を踏まえた弁護側証人の証言は信用が置けないとした。医療界としても許されない判決だ。最高裁に向けて医療界が一致して訴えていく必要がある」と話した。

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判決後の記者会見(右:須田昭夫会長、左:佐藤一樹理事)

(『東京保険医新聞』2020年7月25日号掲載)