特養あずみの里裁判 看護師に無罪判決

公開日 2020年08月25日

特養あずみの里裁判 看護師に無罪判決 

 

 

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 看護師の無罪判決を喜び合う支援者たち(7月28日、東京高等裁判所前)


 7月28日、特養あずみの里「業務上過失致死」事件の控訴審において、東京高等裁判所は、一審の有罪判決を破棄し、無罪判決を言い渡した。8月11日までに東京高等検察庁は最高裁判所に上告せず、無罪判決が確定した。

否定された地裁判決

 同事件は、2013年12月12日に長野県にある特別養護老人ホーム「あずみの里」において、当時85歳の入所者の女性が、食堂で提供されたおやつ時間中に体調が急変し、突然倒れ意識が回復しないまま2014年1月に死亡したものだ。検察は死因がおやつのドーナツによる気道閉塞だとして、当時介護業務を手伝い、間食を配膳していた准看護師の被告を業務上過失致死罪で起訴した。その後2度にわたって訴因変更し、被告の落ち度は「おやつの形態変更確認の義務違反」に変更された。一審の長野地裁は、「おやつの形態変更確認の義務違反」のみ有罪として、罰金20万円を言い渡した。

 東京高等裁判所は判決で、「(被告は)自ら被害者に提供すべき間食の形態を確認した上で、これに応じた形態の間食を被害者に配膳し、ドーナツによる被害者の窒息等の事故を未然に防止する注意義務があったということはできない」とし、「過失の成立を認めた原判決(一審判決)の結論は是認することは出来ない」と結論付けた。

上告断念求める声明を採択

 判決後、東京保険医協会は司法記者クラブで記者会見を開き、須田昭夫会長と佐藤一樹理事が、事実経過と裁判における協会の取り組みについて説明した。

 協会は、一審で認定された死因に疑問をもっていたため、2020年3月14日に、当該被告人の弁護人らの協力のもとに、4人の専門家医師(脳外科専門医2人、放射線専門医、元法医学教室救急医)による合同カンファレンスを開催した。裁判証拠となっている死因に係る画像および臨床経過が記載された診療録を詳細に検討し「CT検査は明らかに脳底動脈領域の脳幹部(中脳)梗塞所見を示しており、経過と合わせて勘案すれば、意識消失前に脳梗塞を発症したと考えられる。脳梗塞に起因する呼吸停止が死因である」との結論を得た。カンファレンスを経て参加した医師3人が意見書を作成し、控訴審裁判所へ提出した。

 東京高裁の判決は死因についての言及を避けた。その理由は、一審判決の事実誤認が明らかで、本件公訴が提起されてから5年以上が経過しているため、これ以上准看護師を被告人の立場において、裁判期間を長引かせないためという、人権に配慮したものだった。

 また同日、参議院議員会館内で報告集会が開かれた。集会に参加した片倉和彦理事は「一審判決は介護現場を見捨てるものと感じていたが、今回無罪判決が出て安心した。ただし、現在の特養は明らかに人手不足であり、入居者を支えるための体制の充実が不可欠だ」と現場の課題を訴えた。

 事故からは既に6年半が経過し、罪を犯していない者が被告人の立場に立たされたこと自体が人権侵害である。東京保険医協会は8月8日の理事会において東京高等検察庁に対し、被告人を1日も早く解放したいという東京高裁判決を真摯に受け止め、上告断念を求める声明を採択し、発出した。

記者会見写真
判決後の記者会見(右:須田昭夫会長、左:佐藤一樹理事)

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報告集会で挨拶する片倉和彦理事(写真右)

(『東京保険医新聞』2020年8月25日号掲載)