オンライン資格確認 慎重な検討を

公開日 2021年02月13日

2021年3月からマイナンバーカードを用いた保険資格のオンライン確認が開始される。会員からは「導入は義務なのか」「導入しないことでペナルティや周囲から取り残されないか不安」などの声が寄せられている。

 オンライン資格確認の仕組みと問題点、今後求められる対応について紹介する。

顔認証付きカードリーダー推進に前のめりな政府

 オンライン資格確認とは、患者が持参するマイナンバーカードに保険証機能を持たせ、医療機関のカードリーダーで読み取り、支払基金・国保中央会のデータにアクセスして資格確認を行う仕組みだ。

 マイナンバーカードを用いた確認方法には顔認証と暗証番号の2通りがある。マイナンバーカードを用いない場合には、保険証の記号番号等を入力する(表1)。

 顔認証の場合は患者がカードリーダーにマイナンバーカードを置くと、カメラが患者を撮影し、カードのICチップに入った顔写真データと照合して本人確認を行い、システムから資格情報を取得する(または受付スタッフが目視でカード表面の顔写真と比べる形で本人確認する)。

 暗証番号を用いる場合は、患者本人または保護者等が4桁の暗証番号(マイナンバーカードを受け取る際に設定するもの)を入力する。

 政府は顔認証付きカードリーダーを強力に推進している。顔認証付きカードリーダーは3製品あり、暗証番号確認の機能も備えている。診療所には1台、病院には3台まで無償提供するとしているが、顔認証付きカードリーダーを受け取ったがオンライン資格確認を導入しなかった場合、カードリーダーの実費相当額の返還義務が生じるため、注意が必要だ。

 また、国はその他の導入費用の補助を行う(診療所では上限約43万円)としているが、顔認証付きカードリーダーを導入した場合しか、補助対象とならない。

 「顔認証」を普及させ、デジタルデータを集中管理したい国の意図が見える。

オンライン資格確認 考えられる問題点・デメリット

 国はオンライン資格確認のメリットとして、期限切れ等の資格喪失保険証使用の防止、特定健診・薬剤情報が閲覧できること等を挙げている。しかし、そうしたメリットが、以下に挙げられるような問題点・デメリットと釣り合うかどうかを考慮する必要がある(下図)。

①設備導入・維持の負担
 カードリーダーの設置だけでなく、保険資格情報が登録されている支払基金・国保中央会にアクセスするための端末とインターネット回線などを新たに備える必要がある。

 国の導入費用の補助は、導入後の定期的なメンテナンスや改修等の維持費用を対象としていない。

②資格確認の実務的な負担
 資格確認のために煩雑な手順が求められる。カードの使用に不慣れな高齢者などがカードをリーダーにかざし、顔認証用のカメラの前に立つ作業をスムーズに行えるだろうか。場合によっては介助者を新たに用意する必要が生じる。

 また、マスクをつけたままの顔認証ができるか不明であり、感染拡大防止の観点からも難点がある。

③個人情報漏洩の危険性
 オンライン資格確認システムは一般インターネット回線を用いることから、セキュリティ対策は万全とは言えず、院内カルテシステムが危険にさらされる可能性がある。

 また、マイナンバーカードを持ち歩くことが前提となるため、院内での紛失・取り違えの危険性が高まる。

④患者の自己情報 コントロール権の侵害
 オンライン資格確認システムは今後、医療機関の電子カルテとデータセンターをつなぎ、診療情報を自動的に収集する計画である。患者の診療情報がデータセンターに流れてしまう危険性を孕む。また、それらの情報を営利目的で利用することが検討されている。

 このシステムがめざす「データヘルス改革」を通して、患者の生涯にわたる医療・保健情報が全国の医療機関で利用されることになると、医療における患者のプライバシーはなくなり、患者の自己情報コントロール権が侵害されることにつながりかねない。

患者への保険証持参の呼びかけを

 オンライン資格確認が3月に始まるからと言って、従来の保険証が使えなくなるわけではない。

 2021年1月17日現在、顔認証付きカードリーダーの申し込みを行っている医療機関は、医科診療所で全体の16・5%、病院で31・7%に過ぎない(表2)。また、マイナンバーカードの普及率も2021年1月1日現在で24・2%に留まっている。

 インターネット環境を備えない医療機関からは、「将来的にオンライン資格確認が義務化されたら医院継続ができない」との声もある。

 オンライン資格確認は義務ではなく、無理をして導入する必要はない。導入補助金も23年3月導入(21年4月以降の補助率は4分の3、上限32・1万円)まで申請可能であるため、3月までに慌てて準備する必要はない。十分検討した上で慎重に判断しなければならない。

 また、オンライン資格確認のシステムと院内システム(レセコン、電子カルテ等)との連動は必須ではなく、それぞれのシステムをつながずに運用することが可能である(表1)。システムベンダーから顔認証付きのカードリーダーと院内システムとの連動の提案が予想されるが、会員からは、「現状のレセコンと接続できない」「改修費用が高額になる」などの声が寄せられている。

 また、システムの不具合発生時、災害等による停電時にはオンライン資格確認を行うことはできず、保険証での確認が必要になる。つまり、オンライン資格確認を導入するか否かにかかわらず、患者には保険証を持参してもらう必要があり、混乱を避けるためにも案内・情報提供が欠かせない。4面に患者向けの院内掲示例を、5・6面にポスターを掲載しているので活用されたい。

(『東京保険医新聞』2021年2月5日号掲載)