在宅医療シンポジウム ACPについて意見交換

公開日 2021年03月09日

竹下啓氏(東海大学医学部医療倫理学領域 教授)
吉澤明孝氏(要町ホームケアクリニック 院長)
服部絵美氏(白十字訪問看護ステーション 所長)
 
 

 

 研究部と地域医療部は1月31日に在宅医療シンポジウムを開催し、医師・看護師・ケアマネジャーなど48人が参加した。

形式に縛られ過ぎず本人の意思や利益のために

 はじめに竹下啓氏(東海大学医学部医療倫理学領域教授)から「少し肩の力を抜いて“ACP”を考えよう」と題した講演があった。竹下氏は、ACPの概念が仕事や家族関係なども含めたものに広がりつつあり、人によってACPのイメージが異なっていることを認識しておく必要があると注意喚起を行ったうえで、ACPのエビデンス、ACPにおける医療・ケアチームの役割を概説した。

 ACPは日常のインフォームドコンセントやシェアード・ディシジョン・メイキングの延長線にあり、在宅医療の現場で行っていることが既にACPであると指摘し、肩の力を抜いてACPに取り組もうと提言した。同時にACPや文書に縛られすぎることなく、何が本人の意思や最善の利益にかなうかを、医療・ケアチーム、家族等が話し合うことが大切だとまとめた。

がん患者には早期のACP開始を

 次に吉澤明孝氏(要町ホームケアクリニック院長)から「在宅(がん)緩和ケアにおけるACP」と題して在宅医療の現場におけるACPの実践例について報告があった。

 吉澤氏は、ACPはすべての疾患に必要なものだが、がん患者と非がん患者では開始するタイミングが異なると述べた。がんの症状は急激に進行するため、「もう少し悪くなってから」「後で」では間に合わない。本人が希望する最期を過ごすためには、できるだけ早い段階でACPを開始することが重要だと述べた。他方、「これからどうしたい?」と問いかけ、本人の望みを尋ねるのはがん、非がん共通だとした。

 ACP実施時の注意点として、①非侵襲的なコミュニケーションを心掛けること、②感情に注目し、対応すること、③代理意思決定者と共にプロセスを共有すること、④本人が大切にしたいこと、してほしくないことを尋ねること、⑤患者にとっての最善を協働して探索することを挙げた。表情をよく見ながら行い、状況によっては家族と一緒の際に尋ねたり、一時先送りするなど、患者がショックを受けていないかよく観察しながら行うことが必要だと強調した。

多職種でのACP患者自身の意向に沿って

 服部絵美氏(白十字訪問看護ステーション所長)からは「その人らしい生き方を支援する多職種で取り組むACP」として訪問看護師の立場から報告があった。

 服部氏は訪問看護師として心掛けている点として、①患者・利用者本人が安心して自分の希望を伝えられる存在であること、②本人が理解しやすい言葉で伝えること、③本人・家族が決めていく過程を待ち、一緒にサポートしていく存在であること、④多職種をつなぐ役割を担うことを挙げた。ACPにおいては、病状が悪化した際に話したことは本人の記憶に残っていないことがあるため、改善後に再度同じことが起こったらどうしたいかの意向を伺うこと、長期間関わっている利用者の場合や利用者の認知症が進行して意向確認が難しくなった場合などは、ケアチームだけで「これが最善」だと思い込みがちなので本人の意向に立ち戻って考えるようにすることが重要だと述べた。

 中村洋一副会長が司会を務め、講師、会場参加者、Zoom参加者の間で活発な質疑応答が行われた。

(『東京保険医新聞』2021年2月15日号掲載)