[解説]コロナ拡大で明らかになった都立・公社病院独法化の問題点

公開日 2021年05月07日

コロナ拡大で明らかになった都立・公社病院独法化の問題点


病院有床診部長
水山 和之

はじめに―都議会議員選挙の争点に

 東京都は、2021年1月より都立広尾病院と、東京都保健医療公社の荏原病院および豊島病院の3病院を実質的なコロナ専門病院とし、都内にある14の都立・公社病院のコロナ病床を1100床から1700床に増床しました。

 都立・公社病院の医療スタッフの皆様には、東京都の突然の発表で大変なご心配をおかけしたうえ、全面的なご協力をいただき、都民にとっても、すべての医療機関にとっても感謝に耐えません。

 連日のように、マスコミにて医療病床のひっ迫、医療崩壊が叫ばれるなか、民間病院にも新型コロナウイルス感染症患者等を重点的に受け入れるよう圧力がかかっています。しかしながら、特に中小の病院や有床診療所には、感染症の専門医も訓練されたスタッフも不在で、都の保健医療施策に協力したい気持ちはあれども、とても対応できないというのが現状です。

 都立病院は1879年、コレラなどの伝染病や精神疾患の対策として開設された病院などが始まりで、墨東病院など8病院あり、現在では、災害医療、難病医療、周産期医療、小児精神医療、エイズなど感染症医療などに欠かせない存在となっています。

 また、東京都保健医療公社は、1988年に東京都と東京都医師会などが出資して設立された財団法人(現在は公益財団法人)で、大久保病院など6病院あり、都立病院と同じく、民間病院では対応が難しい不採算の「行政的医療」に取り組んでいます。

 まさに、このコロナ禍にあって、都民が頼りにしている病院ではありますが、小池都政は、毎年約400億円を一般会計から組み入れていることを解消するため、2022年度内をめどに独立行政法人化(独法化)を実行すべく、今なお水面下で準備を進めています。都民のいのちと健康を守るため、7月の都議会議員選挙の争点とならざるを得ません。

疲弊する民間病院と都立病院の役割の見直し

 東京都の医療体制は、まさに日本の顔であり、公的病院と民間医療機関が連携して、最先端技術、設備、医療レベルなど世界一流を疑う人は少なかったと思います。

 それが、2020年1月から始まった新型コロナ感染症拡大の中で、まず、PCR検査体制の整備の遅れにより、都民の脳裏に疑問符が焼き付けられたことは記憶に新しいところです。それでも、日本のコロナ患者の死亡率は海外に比べて明らかに低く(その要因は「ファクターX」とも名付けられていましたが)、重症患者を受け入れた公的病院における医療水準の高さが大きな要因であることに疑いの余地はありません。

 しかしながら、昨年、日本中に衝撃が走りました。最重症患者を受け入れ、エクモなどの最先端技術にて救命していた東京医科歯科大学医学部附属病院が、4月だけで12億円の赤字を計上したというニュースが流れたのです。そんなに医療費がかかるのかという驚きとともに、東京から医療機関を助けようという国民的な動きが広がったのは、我々医療関係者にとって誠に喜ばしいことでした。

 また、コロナ禍は、一般の救急を担う民間病院や、後方を支援する中小病院の経営をも直撃しています。その大きな原因は、コロナの軽症患者、中等症患者、重症患者の病院間の割り当てが混乱し、救急病院や中小病院でもクラスターが次々に発生したことです。民間病院は、診療報酬改定のたびに、究極まで効率性をあおられており、余剰資金も乏しく、疲弊しているのが実態です。政府や東京都からの感染対策の支援が行われるようになりましたが、焼け石に水の状態であり、独立行政法人福祉医療機構からの医療貸付に頼る民間病院も少なくありません。

 そのような中で、都立・公社病院のコロナ病床拡大は、コロナ患者と一般救急患者を分けて、安全な医療を提供するうえで大変に心強いものです。もちろん、その安心感の根底には、東京都の「行政的医療」としての一般会計予算400億円があり、到底診療報酬では賄いきれない不採算医療を担当してくれるという、期待感です。

独法化で何が起きるの? 

 独法化のポイントは、経営優先へ大きく舵が切られることです。

 東京都は、「そんなことはない、今まで通りの医療を提供します」と言っていますが、独立行政法人法の中期目標では、「住民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上」とある一方、同時に「業務運営の改善及び効率化」の目標達成が求められています。これは、ほとんど民間病院と同じ経営が求められていると言っても過言ではありません。

 では、具体的に、どのように経営の効率化が図られるのでしょうか?

 すでに独法化されている国立病院、大阪府立病院、東京都健康長寿医療センターの例を見てみればよくわかります。残念ながら、職員給与の引き下げ、成果給の導入、非正規職員の増加、患者負担(個室料金、分娩料、保証金など)の増加が行われるでしょう。最も心配するのは、不採算医療の切り捨てです。一部にせよ成果給が導入されるならば、診療報酬収入の少ない医療は削られ、評価の得られない専門医も離れていかざるを得ません。これで、東京都の医療体制は守られるのでしょうか?

都立・公社病院としての存続が不可欠

 昨年から始まるコロナ禍は、日本国民に、地域医療が都立・公社病院を含めた公的病院と、民間の医療機関との機能分担・連携で保たれていることを再確認させるきかっけとなりました。

 我々、東京保険医協会は、新型コロナ感染症を、まさに災害医療と位置づけ、様々な対策に取り組んでいます。

 さらに、地震、台風、洪水など、迫りくる複合災害に対処するには、経営優先の独立行政法人病院ではなく、都民のために、不採算の医療もいとわない都立・公社病院の存続が不可欠なことは間違いありません。


 

(『東京保険医新聞』2021年4月5日PR号掲載)