税制セミナー 与党税制大綱 税務当局の管理強化 示す

公開日 2022年03月02日

  
 当日の模様と講師の粕谷幸男税理士(1月8日、協会セミナールーム)

 経営税務部は1月8日、税制改正セミナー「税制大綱・インボイス学習会」を開催し、会場・Zoomを合わせ34人が参加した。講師は、KASUYA税理士法人の粕谷幸男税理士が務めた。

■白色申告を否定する改定内容

 令和4年与党税制改正大綱では、「円滑・適正な納税のための環境整備」、「記帳水準の向上」をあげている。

 具体的には、正規の簿記の原則に従った記帳を行っているものは約3割に留まっているとして、会計ソフトを導入し複式簿記による記帳を更に普及・一般化させる方向で所得税の青色申告制度の見直しを含めた検討を行う、としている。

 これに対し粕谷税理士は、「税制大綱を決定した政権与党の自民党・公明党自身は、政治資金の会計処理を複式簿記ではなく、収支計算報告によって行っている。それにもかかわらず、国民に負担の大きい複式簿記を強いるのは、理解に苦しむ。個人事業者の場合、複式簿記による記帳が3割である現状を考慮すれば、残りの7割が複式簿記を理解し、更に会計ソフトを自己負担で導入するには、負担と困難が伴う。現状認められている白色申告を否定する方向で強引に改革を推し進めようというものだ」と、問題点を指摘した。

 その他にも、税制大綱では、「デジタルでの帳簿書類の保存の義務化」「デジタルでの帳簿内容不備への制裁強化」「税務調査時の帳簿書類の提示等の非協力への制裁強化」をあげている。粕谷税理士は、これらはいずれも税務当局が各事業所の帳簿書類を管理しやすくするための改定で、税務調査時の協力を納税者に強いるものだと強調した。

■消費税免税事業者にも関係するインボイス制度

 2023年10月から、インボイス制度の導入が予定されている。導入後に消費税の納付税額から仕入れ税額を控除するには、適格請求書発行事業者が発行する適格請求書を受け保存することが要件となる。医療機関には、どのような影響があるのか。

 粕谷税理士は、「健診や自由診療等の収入が年間1千万円以下の場合、基本的に消費税の免税事業者となるが、だからといってインボイス制度は関係ないとは言えない。例えば医師会から健診を請け負っている場合、医師会が消費税の仕入れ税額控除を受けるには、健診を請け負う各医療機関が発行したインボイス(適格請求書)が必要になる。医師会からインボイスの発行を求められた場合、対応する義務はないが、その場合、消費税相当額の値引きを求められる、またはインボイスに対応している医療機関に健診の依頼が集中する可能性がある。適格請求書発行事業者としての登録を行いインボイスを発行できる環境を整備する方法もあるが、それは消費税の免税事業者であることを放棄することであり、消費税の簡易課税方式か原則課税のどちらかを選択しなければならない。そうなると帳簿整備や請求書発行、納税などの手間が増え、医療機関にとっては過大な負担となる。顧問税理士とよく相談のうえで準備を進めてほしい」と語った。

 また、粕谷税理士は、電子帳簿保存法による電子帳簿の保存義務の開始が2年間延期されたことにも触れた。今後、65万円の青色申告特別控除を受けるには、対応する電子計算機処理システムを導入する等の「優良」な電子帳簿保存が求められることが懸念されるので、注視が必要だ。

 経営税務部では、今後も医業経営に役立つセミナーを開催していく。
 

(『東京保険医新聞』2022年2月5日号掲載)