オンライン資格確認 生保受給者へ 強引な推進

公開日 2022年06月11日

 2022年3月に本格運用が開始された、マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認について、国、各自治体による強行的な推進策が進められている。

生保受給者を狙い撃ちに マイナカード取得を強要

 2021年6月4日に成立した「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(以下「改正法」)の中で、生活保護受給者の医療扶助の資格確認において、マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認を使用することが定められた。また、「改正法」は、生活保護指定医療機関に対し、オンライン資格確認の仕組みの導入に協力するよう求めている。

 こうした国の方針に基づいて、複数の自治体で受給者に対して、2023年度から、医療機関を受診する際に医療券の代わりにマイナンバーカードを提示することが「原則」になる等として、マイナンバーカードの取得手続きを要請する通知書が送付されていることが明らかになった。

 マイナンバーカードを取得するかどうかは、本人の意思に基づく任意である。実際、「改正法」の条文においても、マイナンバーカードの使用を「原則」とする記載はない。生活保護受給者に事実上マイナンバーカードの取得を強要するような通知内容は容認できるものではない。

 国内でオンライン資格確認に対応している医療機関は18・7%に過ぎず(2022年5月8日時点)、対応している医療機関においてもオンライン資格確認が普及しているとは言い難い。

 生活保護受給者のみにマイナンバーカードによる資格確認を強要することは、医療へのアクセスを阻害するだけでなく、受給者の人権侵害にもつながり、全国民に保障されている医療を受ける権利を奪うことになる。


 江戸川区福祉事務所から「受給者のみなさんへ」として送付された通知書。2023年3月31日までのマイナンバーカード取得を要請し、その下にはカード取得により最大2万円相当のマイナポイントを付与との記載がある

オンライン資格確認 医療機関への導入誘導も

 また、医療機関に対しても、オンライン資格確認導入へ誘導する動きが起こっている。

 2022年4月には、顔認証付きカードリーダーを申し込んでいない医療機関・薬局に対し、オンライン資格確認による診療報酬の加算や補助金の給付期限等の案内が掲載されたリーフレットや、オンライン資格確認を行う予定があるか、予定がない場合の理由などを問う「導入意向調査」等が送付されているほか、電話による勧誘も行われている。

 しかし、補助金はオンライン資格確認の設備導入・維持の費用を賄いきれるものではない。また、受付窓口を中心とした事務作業の煩雑化や、様々な個人情報とリンクしているマイナンバーカードに保険証機能や薬剤、健診情報などを一元化することによるセキュリティ上のリスク、本来資格確認に必要のない「顔認証機能」の導入が求められていることなど、同システムには多くの問題点がある。実際にオンライン資格確認システムを導入した医療機関でも、カードの読み取りエラーが報告されている。

 個人のマイナンバーカードの取得も、医療機関のオンライン資格確認システムの導入も任意である。強制または強制めいた勧誘を行ってはならないはずであり、まして国の政策推進の手段として生活保護受給者を差別することは許されない。

 協会は、生活保護受給者の資格確認にマイナンバーカードの使用を原則化する方針を撤回するよう求めていく。会員医療機関におかれては、上記の通知書が地域の生活保護受給者に送付された場合には、ぜひ協会まで情報提供いただきたい。

(『東京保険医新聞』2022年5月25日号掲載)