[解説]医療DXのねらいを読み解く

公開日 2022年12月09日

❖「医療DX」を強硬に推進 来春に工程表 

 政府の「医療DX※推進本部」(本部長:岸田文雄首相)は10月12日、初会合を開催した。①「全国医療情報プラットフォーム」②「電子カルテ情報の標準化等」③「診療報酬改定DX」を政策の3本柱に据え、2023年春までに工程表を策定するとした。「データヘルス改革に関する工程表」はすでに示されており、さらなる加速化が狙われている。

 厚労省は、電子カルテ・医療情報基盤タスクフォースと診療報酬改定DXタスクフォースをそれぞれ別に立ち上げ、強力に「医療DX」を推進する構えだ。「医療DX推進本部」は自民党政務調査会が5月17日に行った提言「医療DX令和ビジョン2030」の実現を目指しており、同ビジョンでは危険な医療政策が明け透けに語られている。
※デジタル・トランスフォーメーション

表 データヘルス改革に関する工程表 第8回データヘルス改革推進本部資料から

❖電子カルテ情報の標準化とオン資システム

 電子カルテ情報の標準化については、国際基準となる「HL7FHIR」を活用して、共有すべき項目の標準コードや交換手順を厚労省が定めるとしている。また、医療情報標準化推進協議会(HELICS協議会)で規格化の準備作業を加速させるとしている。まずは3文書(診療情報提供書・退院時サマリー・健診結果報告書)・6情報(傷病名 ・アレルギー・感染症 ・薬剤禁忌・検査(救急、生活習慣病)・処方)を対象として電子カルテの共有・標準化をスタートし、既存のオンライン資格確認等システムのネットワーク上で相手先の医療機関に送信し、相手先の医療機関等において本人同意の下で同システムに照会 ・受信できるようにすることが計画されている(下図参照)。

 またビジョンでは、①閲覧権限を設定する機能や閲覧者を患者自身が確認できる機能等の実装、②診療を支援し、作業を軽減する機能の実装、③検査会社との情報連携の方法の決定、④介護事業所などにも医師が許可した電子カルテ情報について共有可能にする─などの検討も行うとしている。

図 考えられる実装方法(イメージ)
  厚労省「全国的に電子カルテ情報を閲覧可能とするための基盤について」から

❖2030年に電子カルテ義務化?! 普及率目標を100%に設定

 電子カルテ未導入またはHL7FHIR未導入の医療機関では、医療情報の連携が図られないため、電子カルテそのものの標準化を強力に推進するとしている。ビジョンでは、電子カルテの普及率(2020年厚労省調査)が、一般病院57.2%、一般診療所49.9%であることを問題視し、電子カルテ普及率の目標値を2026年までに80%、2030年までに100%と設定している。電子カルテ未導入の一般診療所に向けて、補助金を導入し、「官民協力により低廉で安全なHL7FHIR準拠の標準クラウドベース電子カルテが開発され活用されるための施策を行う」と明記されている。

 現在行われているオンライン資格確認等システムの導入と同じ手法が電子カルテにおいても計画されている。標準型電子カルテの導入は、「全国医療情報プラットフォーム」実現のために政府とIT業界にとって欠かすことのできない課題だ。2030年の電子カルテ普及率の目標を100%としている点からも、標準型電子カルテの無償提供などにより2030年までに「導入義務化」される危険性がある。官製でIT業界の需要を創出し、患者の医療情報を利活用し、医療の在り方を規格化、変質させることを許してよいのだろうか。

❖診療報酬改定DXで診療報酬体系も変質の恐れ

 医療機関やベンダの負担軽減に向けて、各ベンダ共通のものとして活用できる「共通算定モジュール」(以下、モジュール)を、厚労省・審査支払機関・ベンダが協力し、デジタル庁のサポートも得て作成するとしている。将来的には診療報酬改定時にモジュールの更新を行うことで足り、ベンダ負担が大きく軽減されるとしている。モジュールがどのような内容になるのかは未知数だが、診療報酬体系が電子カルテやレセコンの標準化、診療報酬改定DXの影響を受け、今後変質していく可能性がある。「医療DX」に対応できない医療機関やベンダは診療報酬改定時に取り残されるだけでなく、淘汰されていくことが懸念される。

 また、「4月施行となっている診療報酬改定の施行日を後ろ倒しし、作業集中月を解消するとともに、モジュール作業の後戻りやミスをなくす」ことがビジョンに明記されている。これまでも改定の度に医療機関とベンダの混乱は発生しており、協会は改定実施まで十分な周知期間を設けることを要求してきたが、政府は応じてこなかった。「医療DX」を理由に改定時期の後ろ倒しを検討するのはダブルスタンダードだ。ビジョン提言とは関係なく、厚労省は次期改定において改定施行日の後ろ倒しを必ず実現すべきだ。

(『東京保険医新聞』2022年11月25日号掲載)