[解説]政府のマイナンバー利用拡大の動き

公開日 2023年03月03日

 現通常国会において、デジタル庁がマイナンバー利用拡大に向けた改正法案の提出を予定している。

 現行のマイナンバー法は「別表1」でマイナンバーを利用できる行政機関やその範囲を規定し、「別表2」で情報連携できる行政機関と業務を規定している。これに対し、デジタル庁の改正法案は、「別表1」の業務に「準ずる業務」の利用を可能にし、さらに「別表2」の位置づけを、政省令に格下げするというものである。マイナンバーの利用が国会審議無しに政府の裁量で広がる恐れがある。

 デジタル庁の有識者会議では「紐づけ業務を増やせば、個人情報の漏洩リスクは高まる。利用拡大のリスクを国民に説明する必要がある」と指摘されている。

 

マイナンバー紐づけで国民の資産が把握される

 マイナポイント7千500円相当をアメに2022年開始したマイナンバーと公金受取口座の紐づけは、2022年末時点で約3千200万件となった。

 登録増を目指すデジタル庁は、年金など他制度で使用されている預貯金口座へのマイナンバー紐づけを計画している。その方法は「本人に通知して一定期間に不同意の回答がなかった場合は、同意したものとして扱う」という乱暴なものである。

 2022年末の経済財政諮問会議で示されたマイナンバー利用拡大ロードマップには、社会保障について、所得のみならず保有資産に応じた負担の検討が明記されている。

 2020年度税制改正で、固定資産税の適正な課税のために、所有者不明土地対策として、納税義務者の死亡を適時に把握することが重要とされたことを受け、2026年には原則全ての市町村において固定資産とマイナンバーの紐付けを可能にすることなども盛り込まれている。

 所得情報等の紐づけについても、給与所得情報の提出の統一化・共通化や、所得情報把握の具体的な検討が進められており、国民の収入から貯蓄・資産まで丸裸にする計画が見て取れる。

民主主義と人権に反するマイナカード取得強制

 各地のマイナカード強制取得事例も報告されている。岡山県備前市では小中学校の給食費と一部の学用品費が無償であるが、2023年度からは児童生徒の世帯全員がマイナカードを取得していることを条件とする方針が出され、問題となっている。同市は保育料や農林水産関係の補助金にも同様の条件付けをするという。

 背景には地方交付税額にマイナカード交付率を反映するという国の誘導策があるが、このような差別は許されるものではない。

 岸田首相は1月23日の施政方針演説で、マイナカードはデジタル社会のパスポートだと重要性を強調し「医療では、スマートフォン一つあれば、診察券も保険証も持たずに、医療機関の受診や薬剤情報の確認ができるようになる」とメリットを説明した。しかし、それは人権や民主主義、個人情報と引き換えにできるほど便利なことなのか。

 国はマイナカードの利便性を挙げて国民に使わせようと躍起になっているが、徴税強化や社会保障費削減などのために国こそが便利に使えるものであり、情報漏洩やスコアリングの危険があるということに留意しなくてはならない。

(『東京保険医新聞』2023年2月25日号掲載)