オン資「義務化」撤回訴訟 第三回口頭弁論 裁判の争点 より明確に

公開日 2023年10月10日

 9月12日、「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」の第三回口頭弁論が東京地裁(岡田幸人裁判長)で開かれた。弁護団に加え、須田昭夫原告団長をはじめ原告5人が原告席で審理に臨んだ。

 口頭弁論に先立ち、原告側は、8月31日に準備書面を提出し、国の主張に反論・反証した。①オンライン資格確認に係る事項を委任する健康保険法の規定は存在せず、仮に委任があると解釈しても、改正後療養担当規則はその委任の範囲を逸脱してオンライン資格確認を義務化しており、違法・無効であること。②オンライン資格確認の義務化は、医療活動という保険医である原告らの職業上の権利を侵害し、違憲・無効であることを改めて主張した。

 岡田裁判長は、国が答弁書を提出する期限を11月30日と指定し、第四回口頭弁論は12月7日に103号法廷で開かれることが決まった。口頭弁論の後、原告団は航空会館で記者・原告説明会を行い、マスコミ5社が参加した。

「空中戦」にならないよう国側に説明を求める

 「受給資格の確認等、療養の給付に係る一連の事項についても健康保険法70条1項が包括的に委任している」との国の主張に対し、原告側は、国が証拠として提出した『健康保険法の解釈と運用』を根拠に、準備書面で反論した。健康保険法は、療養の給付について70条1項のみならず複数の条文で政令・省令への委任を個別に規定している。また、同法には資格確認を保険医療機関に義務付ける規定は存在しない。

 第三回口頭弁論で、岡田裁判長は、国に対し、①健康保険法が委任している先例があるのか、②先例がないなら、なぜ委任しているといえるのかを具体的に説明するよう求めた。また、同じ主張の繰り返しを避け、「空中戦」にならないよう釘を刺した。

国側の証拠との整合性を問う

 原告側はまた、仮に70条1項の委任があると解釈しても、オンライン資格確認を義務化した改正後療養担当規則は、その委任の範囲を逸脱し、違法・無効であると主張している。原告側、国側はともに、最高裁平成25年1月11日第二小法廷判決(民集67巻1号1頁)の判例解説で示された4つの考慮要素(①授権規定の文理、②授権規定が下位法令に委任した趣旨、③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性、④委任命令によって制限される権利ないし法益の性質等)に基づいて主張を展開している。

 原告側は準備書面で、①~④のいずれの要素についても国の主張に反論した。国は証拠として2022年4月26日の衆議院総務委員会の会議録を提出しているが、実際には同会議録では、オンライン資格確認の体制整備を義務付けることに厚生労働省側からも否定的な意見が出されている。それにもかかわらず国は同年9月5日に省令(療養担当規則)を改正して拙速に義務化し、その結果、保険医療機関の費用面での負担にとどまらず、運用開始後もトラブルが多発し、「国民の生活の安定と福祉の向上に寄与する」(健康保険法1条)という、授権法(同法)の目的等に合致しない状況が生じている。岡田裁判長は、国側の証拠として提出された国会会議録と、国側の主張との整合性についても国に説明を求めた。

医療活動の自由に対する権利侵害を主張

 保険医である原告らの医療活動は、生存権(憲法25条)、プライバシー権(憲法13条)等、国民の生命・身体・財産等の権利保障を含む憲法上の権利だ。オンライン資格確認の義務化は、原告らの重要な権利を侵害するものであり、違憲・無効である。

 国は、保険医療機関がオンライン資格確認に係る体制整備の義務に違反した場合に、直ちに指定を取り消すのではなく、まずは地方厚生局による指導を行うこととしており、原告らの医療活動に対し重大な制限を課すとはいえないと主張している。厚生労働省の事務連絡では、オンライン資格確認を導入しない保険医療機関に対して、まずは集団指導を実施するが、それでも導入しなければ「個別に改善を促す」とされ、個別指導が想定されていると考えられる。

 個別指導は、指導手続きの公正性や透明性を担保する仕組みが存在しない上、その後の監査および指定の取消処分とも連動し、保険医に大きな精神的重圧を課すものだと原告側は主張した。

第三次訴訟を提訴 原告 計1415人に

 同日、全国の保険医・歯科保険医340人は「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」第三次訴訟の原告として、国を相手に東京地裁に提訴した。保団連と全国の協会・医会が会員に原告団への参加を呼びかけ、第一次・第二次訴訟と合わせて最終的に1415人の原告団となった。

 記者・原告説明会で、喜田村洋一弁護団長は、「第三回口頭弁論で、原告側が指摘している①健康保険法と省令である療養担当規則との関係性、②国会での議論との整合性に裁判所が関心を寄せ、国に説明を求めたことは重要だ。11月30日までに提出される国からの答弁書をふまえて、さらに裁判所を説得できるよう準備していきたい」と決意を述べた。

 須田原告団長は、「記者・原告説明会を通して、この訴訟が国民からも支持されているとの確信を深めることができた。健康保険証を存続させる取り組みと併せて、引き続き、世論にも訴えていきたい」と結んだ。


記者・原告説明会の様子(2023 年9 月12 日、航空会館)

 以下より「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」の関連資料(訴状、答弁書、被告準備書面、原告準備書面、原告団ニュース等)を閲覧できます。
資料編
裁判の経過編

(『東京保険医新聞』2023年10月5日号掲載)