ピアサポート研究会 患者・市民共同参画で医療者の働き方が変わる

公開日 2023年12月11日

 勤務医委員会は11月3日、講師に宿野部 武志氏(一般社団法人ピーペック代表/社会福祉士)と美馬達哉氏(脳神経内科専門医/立命館大学大学院・先端総合学術研究科教授)を招き、第4回ピアサポート研究会を開催した。会場・Zoom併せて31人が参加した。以下会員の参加記を紹介する。

 
 会場とZoom 双方から寄せられた質問に答える宿野部武志氏(写真左)と美馬達哉氏(写真右)

参加記

 須田 昭夫(須田クリニック 院長)
 第4回ピアサポート研究会が開かれた。ピア(peer)とは「仲間」という意味である。ピアサポートとは、特定の医療を体験した人が、後から来る人を支えようとする活動である。心のサポートであり、協働する医療ともいえる。身体障害者の生活自立支援からはじまり、知的障害や精神障害の分野でも、活動がはじまっている。

 1人目の講師の宿野部武志氏は、血液透析治療を36年間受け続けている社会福祉士で、東京都透析医会および日本腎臓学会の委員であり、全腎協委員、東腎協相談役、2つの大学の治験審査委員や研究員をつとめ、日米の製薬工業会のアドバイザーにもなっている。

 血液透析を20年、30年と続けた患者との会話は、血液透析の開始や継続に悩む患者を勇気づけ、治療を改善する力にもなっている。

 宿野部氏が2013年に開設したウェブサイトによれば、これまでに30名のピアサポーターを育て、延べ100名を超える参加者の悩みや不安に寄り添ってきたようだ。人は誰でも病気になるので、人はピアの中で生きているのではないか、と語った。

 2人目の講師は立命館大学・先端総合学術研究科教授の美馬達哉氏であった。美馬氏は京都大学医学部付属病院脳神経内科の医師でもあり、パーキンソン病や認知症などを診療している。ピアサポートは患者・市民共同参画事業(patient pubic involvement:PPI)とも呼ばれており、生きる権利を守る活動と捉えるが、社会学的な視点での分析が語られた。

 社会学的に見ると、病気は社会規範からの逸脱であり、患者にとって生きるか死ぬかの緊急事態であるが、医師にとっては逸脱をコントロールする日常業務(ルーチン)にすぎない。医師と患者は立場や役割が違うことを、まず認識するべきであるという。医師は患者の治癒を目指すが、医師の倫理として最新の医学を修得する努力をし、技術を冷静かつ公平に実践し、患者との関係性は健康状態の改善のみに限らなければならない。

 PPIに係る患者の中には、医療に恩返しをしたい人もいるが、トラウマを受けた人が医療を変えようとしている場合もある。患者代表という立場は専門家ではないために、視野が狭いことがある。さらに、患者の言葉を業界のために利用しようとする勢力があり、たくさんの失敗例がある。

 PPIが広がりつつあるが、「普通の患者」がお行儀のよい非政治的なパートナーであろうとして、形だけの参画になってしまえば多様性を代表しなくなり、開かれた民主主義という基本的な価値が損なわれてしまうことへの注意が必要だと語った。

(『東京保険医新聞』2023年11月25日号掲載)