公開日 2023年12月11日
研究部は10月29日、虐待防止研究会をWeb併用で開催し、25人が参加した。
講師として吉岡充氏(多摩平の森の病院理事長/抑制廃止研究会理事長)と井口昭子氏(多摩平の森の病院看護部長/抑制廃止研究会副理事長)を招いた。「抑制廃止を目指して~医療・介護現場における歴史と実践~」と題し、医療機関や介護施設で行われている身体抑制廃止への取り組みについて事例を交えて解説した。
吉岡充氏 井口昭子氏
身体抑制はやろうと思えば無くせる
最初に吉岡氏が老人病院の抑制廃止の歴史と自身の活動について説明した。医療の進歩によって長生きできるようになったが、高齢となり障害を持つ人が増加した。このような人々の入院先として、東京・大阪・京都などの大都市部やその周辺に老人病院が多くできた。しかし、急激な患者の増加により、縛りつけての点滴医療が日常的にあり、ベッドや車いすでの身体抑制が行われる悲惨な現場となっていった。老人病院は特例許可老人病院、介護力強化病院と変化していったが、抑制はなかなか無くならなかった。
その中で、吉岡氏は複数の病院医師で「老人の専門医療を考える会」を立ち上げ、市民を交えたシンポジウムや厚生省(現・厚労省)の医系技官や官僚との勉強会を開催し、老人医療・制度について議論を重ねていった。また、福岡の病院で、基本的なケアが抑制を減らすことや抑制による悪循環を看護師・ケアワーカー等に説明したところ、院内の85%の抑制をすぐに無くすことができた。
吉岡氏は「抑制を無くすことはできる。できないのは無くそうとしていないだけだ。福岡の病院は普通の老人病院であるが、もっと大きな病院で抑制廃止を目指さなければ抑制は減らない」と述べた。
抑制廃止で患者が快方に
井口氏は病院・施設で実際に行っている身体拘束を行わないケアなど事例を交えて解説した。多摩平の森の病院では人としての尊厳を第一に考え、身体拘束は行わないこととして、職員全員の意思を統一している。大腿骨骨折している重度認知症患者が転院してきた事例で、前の病院ではベッド四点柵による転倒・転落防止、食事・口腔ケアの際はミトンを使用するなどの身体拘束があった。転倒・転落対策として端座位センサーやエアーマットの使用や身体拘束が無い状態での本来の身体状況を把握し、食事・口腔ケアに対してはケア時の声かけへの反応を確認しながら、拒否する場合は無理強いせずタイミングを変えるなどの対応をした。その結果、介護拒否も少なくなり、笑顔もみられるようになった。転倒などもなく、食事も手に持てるものは自己摂取が可能になるなど、抑制廃止をしたことにより改善した。
井口氏は「身体拘束が前提ではなく、拘束をしないためにはどうしたら良いか、患者の立場に立って考えることが重要だ」と指摘した。
参加者からは「ミトンが外せない患者がいるが、今日学んだことを実践し、抑制しないようにしていきたい」「病院の看護師・職員などに抑制廃止を広めていきたいと感じた」「拘束をしていない病院があると知り、勇気・元気をもらった」などの感想が寄せられた。
今回の研究会は協会ホームページにて動画配信を行っている。ぜひご覧いただきたい。
(『東京保険医新聞』2023年11月25日号掲載)