24年度税制改正セミナー 「定額減税」で事務負担増大

公開日 2024年02月26日

 経営税務部は1月24日、奥津年弘税理士(東京あきば会計事務所)を講師に税制改正セミナー「税制改正で何が変わる?」を開催した。

 
 会場の模様(1月24日、協会セミナールーム)

税財政失敗の反省見られず

 2023年12月14日、自民・公明両党は与党大綱を発表し、同月22日に政府は「令和6年度税制改正の大綱」を閣議決定している。

 冒頭で、奥津氏は大綱が「平均賃金やGDPの伸びは、主要先進国を大きく下回って」おり、足元では「物価高騰に国民は苦しんでいる」としながらも、四半世紀に及ぶ経済停滞を招いた税財政失敗に対する真摯な反省や改善の意思が見られないと批判した。

 また、法人税の引き下げにより大企業の税負担を減少させた結果、賃金アップや設備投資には繋がらず、内部留保や配当金ばかりが増加傾向にあることにも触れ、大綱の「法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ない」との記述を示し、各種促進税制により大企業中心の減税施策を続けることの矛盾を指摘した。

 法人の約65%が欠損法人であり、大綱も中小企業には「税制措置のインセンティブが必ずしも効かない構造となっている」と述べている。しかし、次期戦闘機の開発に伴う輸入品は消費税を免除することが示される等、軍需産業や大企業優遇の方針は変わっていない。社会保険料の軽減や消費減税等の中小企業に直接届く施策が求められると主張した。

複雑な定額減税

 今回の税制改正の特徴である定額減税についても解説した(表参照)。

 減税対象世帯は所得税3万円、住民税1万円を本人・扶養家族分控除する。所得税については給与所得者の場合、6月1日以後最初に支払われる給与・賞与等の源泉所得税から控除し、控除しきれない金額は、今年中に支払われる給与・賞与等の源泉所得税から順次控除する。住民税については6月分の特別徴収は行わず、控除後の税額を11分割し、24年7月分~25年5月分で特別徴収を行う。

 事業所得者は、所得税については原則として24年分の所得税の確定申告(25年1月以降)の際に控除され、予定納税の対象となる場合は24年7月の第1期分から控除する。住民税については、第1期分の税額から控除を行い、控除しきれない金額については第2期分以降の税額から順次控除を行うこととなる。

 なお、24年分の所得税に係る合計所得金額が1805万円超(給与収入が2千万円以上)の場合は定額減税の対象とならない。ただし、源泉所得税額からの控除に際しては、ひとまず合計所得金額に関わらず実施し、年末調整時において合計所得金額が1805万円超になる場合(ただし年末調整の対象となる者に限る)には控除実施済額について改めて徴収する。

 

今こそ税制の転換を

 奥津氏は今回の定額減税について、「内閣支持率低下の回復策として、急遽岸田首相の肝いりで発案された。あまりにも突然で準備期間がなく、23年度所得税の年末調整・確定申告に間に合わず、年途中での実施となった。結果、民間・行政ともに実務上大きな手間が生じることになる。全国の勤労者の実質賃金は30年間上がっていない。1回だけの場当たり的な減税では疲弊した暮らしを立て直すことはできず、抜本的な税制の転換が必要だ」と強調した。

※『診療研究』3月号に奥津氏による関連記事を掲載

 

(『東京保険医新聞』2024年2月15日号掲載)