公開日 2024年05月20日
低迷するマイナ保険証 5~7月を「集中月間」に
4月9日の記者会見で、武見敬三厚生労働大臣は、2024年5月から7月までを「マイナ保険証利用促進集中取組月間」とすることを発表した。
政府は2024年12月2日に現行の健康保険証を廃止するとしているが、マイナ保険証の利用率は2024年3月時点で5・47%と、いまだに低いラインに留まっている。このため、5~7月の3カ月間において、集中的な働きかけを行うとしている。
具体的には、医療機関等におけるマイナ保険証利用促進のための支援金について、①2024年5~7月のいずれかの月のマイナ保険証利用人数について、2023年10月の実績および利用人数からの増加量に応じて最大10万円、病院は20万円を支給する一時金へと見直す、②一時金の条件として、医療機関・薬局に対し「医療機関等の窓口における新たな共通ポスターの掲示」や「来院患者への声かけとマイナ保険証の利用を求める新たなチラシの来院患者への配布」などを呼びかけるとした。また、未稼働施設や低利用率施設に対して通知を送付するとした。
医療機関をマイナ保険証推進の旗振り役に
支援金については、2023年度補正予算で「マイナンバーと健康保険証の一体化に向けた取組の推進」に887億円が投入され、そのうちの217億円が「マイナ保険証利用促進のための医療機関等への支援」のための費用とされた。
この時点では、⑴2024年1~5月のマイナ保険証利用率の平均、⑵2024年6~11月のマイナ保険証利用率の平均の2回に分けて、2023年10月時点の利用率平均と比較し、それぞれ増加率に応じて支援するとされていた。
今回の「集中取組月間」では、このうちの⑴は維持した上で⑵を定額の一時金に組み替える。元々2段階で構想されていた支援金を、「一時金」という名目で実質前倒しする形だ。
②で、一時金支給の条件としてポスターやチラシの掲示・配布や患者への声掛けが求められることから、医療機関は単にマイナ保険証による資格確認を行うだけではなく、「マイナ保険証推進の積極的な旗振り役」を担わされることになる。
厚労省作成のチラシ(上図)には、「本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」とあるが、マイナ保険証を持たない人にも健康保険証とほぼ同様の「資格確認書」が送付されることは書かれていない。そもそも、オンライン資格確認自体は現行の健康保険証でも可能である事実は無視されており、患者・国民をミスリードする文面となっている。
マイナンバーカードの保険証利用登録についても、「利用登録は窓口(カードリーダー)でできます」と、医療機関で利用登録を行う前提の文面になっており、医療現場に大きな負担を強いる内容となっている。
「責任転嫁」に他ならない医療機関の通報呼びかけ
河野太郎デジタル大臣は、自民党所属国会議員に対し、マイナ保険証の利用ができない医療機関を国のマイナンバー総合窓口に通報するよう支持者に呼びかけることを求めた文書を配布した。同文書では、マイナ保険証利用率低迷の原因を「医療機関の受付での声かけにあると考えられる」としているが、マイナ保険証利用率の低迷は、度重なるトラブルや使い勝手の悪さによって国民の信頼を失った結果である。資格確認のための受付での正当な手続きを一方的に問題視し、通報を呼びかけるのは責任転嫁に他ならず、デジタル大臣に通報を呼びかける権限はない。
渋谷区議会で健康保険証との両立を求める意見書採択
3月21日、渋谷区議会で「現行の健康保険証とマイナ保険証の両立を求める意見書」(東京土建渋谷支部提出)が自民党・公明党など国政与党を含めた全会派一致で採択された。健康保険証の存続を求める意見書が提出されたのは、調布市・小金井市(協会提出の陳情を採択)と八丈町に続いて都内自治体では4番目となる。
渋谷区議会については、もともと協会が2023年度第3回定例会で「健康保険証の存続を求める意見書の提出に関する請願」を提出し、委員会で採択されたものの本会議では不採択となった経緯がある。
しかし、請願への賛同を求めて紹介議員と各会派を回り、委員の理解を得てきたことが、今回の意見書採択に繋がる下地となった。
協会と他団体とが連携して取り組んだ運動の成果といえよう。
現行の健康保険証存続を求める国民の声が地方自治体の議会を動かしている。協会は、院内掲示用の「保険証持参を呼びかけるポスター」の普及や、東京選出国会議員への要請、メディアへの情報発信等、患者・国民と共に健康保険証の存続を求める取り組みを一層強めていく。
(『東京保険医新聞』2024年5月5・15日号掲載)