[解説]新型インフルエンザ等対策政府行動計画 11年ぶりの全面改定

公開日 2024年06月22日

 新型コロナウイルス感染症が5類に移行して、5月8日で1年が経過した。

 新型コロナウイルス感染症は現在も予防と治療に課題が残り、国民のいのちと健康に重大な影響を及ぼす感染症である。医療機関には引き続き感染対策が求められるが、2024年3月までですべての特例措置が廃止された。6月診療報酬改定では、外来感染対策向上加算の加算として発熱患者等対応加算が新設されたが、月1回20点と従前に比べて大幅に低い点数となっている。

政府行動計画見直し案 国の権限強化

 こうした中で、政府の「新型インフルエンザ等対策推進会議」は4月24日、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の抜本的見直し案をまとめた。同計画は2013年6月に策定され、全面的な見直しは約11年ぶりとなる。パブリックコメントの募集が行われたが、4月24日から5月7日までと非常に短期間であった。政府は6月に閣議決定を行う方針だ。

 現行の「計画」が、有効な対策を考える上で、患者数等の流行規模に関する数値を念頭に置いた被害想定を行っているのに対し、改定案では、「我が国の有する資源を念頭に実現可能な最大量」を設定している。つまり、被害想定に基づいて必要な医療機関や検査数を算出するのではなく、最初に枠を決めた上で対策を立てる形になっている。

 医療DX推進や技術革新も掲げられ、臨床情報の研究開発への活用が謳われているが、具体的に感染症対策とどう関係するのかについては記されていない。「国と地方公共団体との連携」では、「国から地方公共団体への情報発信」「地方公共団体から住民・事業者への情報提供」は掲げられているが、その逆はなく、上から下への一方的な関係が想定されている。

 医療者については、平時から「都道府県と医療機関の間で医療措置協定を締結することを通じて、感染症医療を提供できる体制を整備する」とされ、有事には、「通常医療との両立を念頭に置きつつ、感染症医療を提供できる体制を確保し、病原性や感染性等に応じて変化する状況に柔軟かつ機動的に対応」することとなっている。しかし、一般の診療所の設備や人員体制で対応できる範囲には限界があり、「柔軟かつ機動的な対応」をどのように確保するのかは不透明だ。医療機関の対応能力を超えて、医療者が強制的に動員される危険性も孕んでいる。

 

コロナ禍での反省は活かされているか

 コロナ禍が明らかにしたのは、保健所体制の縮小や病床削減等による国内医療体制の脆弱性であったが、改定案にはこれまでの政策への反省は見られない。

 また、見直し前の計画と比較すると、「有事」という言葉が頻繁に繰り返されているのも特徴的である。「有事のために平時からの体制づくりが必要」という筋立てだが、現在国会で審議中の「地方自治法改正案」も、コロナ禍における国の指示系統に課題があったことを改正の根拠としている。

 感染症対策を口実にした中央集権化、国家統制の強化が行われないよう、注視していくことが必要だ。

(『東京保険医新聞』2024年6月15日号掲載)