公開日 2024年07月30日
出産費用(正常分娩)の保険適用について、妊娠・出産・産後の支援策の強化に向け、厚労省と子ども家庭庁の「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(座長:田邊國昭・東京大大学院教授)が6月26日、議論を開始した。
2026年度の保険適用を念頭に2025年春ごろに一定の方向性を示す方針だ。
①出産に関する支援等のさらなる強化策(医療保険制度における支援の在り方、周産期医療提供体制の在り方など)、②妊娠期・産前産後に関する支援等のさらなる強化策―を2本柱として、議論を進める。
検討会では出産の保険適用に議論が集中した。濱口欣也構成員(日医常任理事)は、出産費用の保険適用について「妊産婦の費用負担ばかりに論点が集中している」と指摘し、結果として、地域の産科医療機関の崩壊が生じれば、妊産婦にとって不幸な状況になると強調した。
前田津紀夫構成員(日本産婦人科医会副会長)は、保険適用によって「いろんな地域で1軒しかない産科診療所が、やめてしまう可能性は結構ある」と懸念を示し「少なくとも今の医療機関が閉じなくてはいけないような減収には、絶対にしてほしくない」と釘を刺した。
出産費用はこれまで、正常分娩の場合、法律上「けが・病気」ではないとして保険適用外であり、施設側が価格を決めている。2023年末、岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の一環で正常分娩の保険適用の検討が決まった。
背景にあるのは出産費用の上昇等だ。公的医療保険からは「出産育児一時金」が支給されており、一時金は2023年4月に42万円から50万円に増額された。しかし、出産費用は自己負担のため、地域による価格差の他、光熱水道費などの高騰を理由に出産の価格を引き上げており、50万円を超える施設も多い。保険適用となれば、全国一律の料金となるため、値上げ抑制につながる。政府は新たな費用負担が発生しない方法を検討するとしているが、保険適用による自己負担を解消しようとすると制度設計が複雑になる。
出産費用の抑制の発想では、分娩施設は減少するばかりだ。安心して出産できる施設を増やしていくためには、現場での負担軽減や十分な費用を確保することが求められる。
(『東京保険医新聞』2024年7月25日号掲載)