公開日 2024年09月02日
政策調査部は7月23日、岡真理氏(早稲田大学文学学術院教授、京都大学名誉教授)を講師に、時局講演会「存在の耐えられない軽さ~ガザのホロコーストと私たち~」を協会セミナールームで開催し、会場とZoomを合わせて30人が参加した。
岡真理氏は現代アラブ文学とパレスチナ問題を専門とする。エジプト・カイロ大学留学時にパレスチナを訪れて以来、パレスチナ問題に関心を持ち、現在も研究に取り組んでいる。
岡 真理 氏
ガザで起きていることは「ジェノサイド」
2023年10月7日、ハマースがイスラエルへの攻撃を開始して以来、両者の衝突が続いている。イスラエルとハマースの間では数年おきに大規模な軍事衝突が起きてきたが、今回ほどの規模は過去に例がない。
イスラエルはハマースに対して激しい空爆等で応酬し、2024年7月22日時点でパレスチナ側の死者は3万8893人、負傷者は8万9727人と、イスラエル側に比して甚大な被害が出ている。岡氏は、住居、教育、医療、経済システム、環境、文化の破壊を伴うイスラエルの攻撃は、ジェノサイド条約における定義に照らし「まぎれもないジェノサイドである」とし、一刻も早い停戦の実現が必要であるとの見解を述べた。
ハマースの攻撃は占領という暴力への「抵抗の暴力」
岡氏は、日本におけるパレスチナ問題に関する報道は、問題の本質(=歴史的文脈)を伝えていないと批判する。1948年の「ナクバ」(民族浄化)、1967年から長期にわたるイスラエルによるガザ地区の占領(2007年からは完全封鎖)、それらに対し国際社会が政治的な解決に向けた対応を行わなかったことが、民族解放組織「イスラーム抵抗運動(略称:ハマース)」を生み出し、ひいては2023年10月7日の攻撃を引き起こしたと指摘する。2007年からの完全封鎖は、人や物資の出入りを著しく制限し、燃料・電気・食料・医薬品などのライフラインは最低限しか供給されないなど苛酷なもので、岡氏は「パレスチナ人の人権を侵害する明確な国際法違反だ」とイスラエルを批判した。
そして「ハマースの攻撃は糾弾されるべきだが、それが長きにわたる占領という暴力に対する『抵抗の暴力』であるという事実を見逃してはならない」と岡氏は語った。
国際社会は応答責任がある
封鎖下で繰り返されるイスラエルの軍事攻撃の度に多数の死者が出ていたにも関わらず、国際社会はイスラエルの戦争犯罪、人道に対する罪を裁かなかった。2018年3月~2019年12月にパレスチナ人によって行われた「帰還の大行進」(平和的デモ)では、イスラエルの攻撃により200人以上の死者と1万人近い負傷者を出しながら、「封鎖の解除、帰還権の実現」を訴えるも、国際社会は応答しなかった。
岡氏は、「民族浄化、占領・封鎖の暴力という根源の歴史的不正を世界が看過する限り、パレスチナ人の尊厳回復を求める闘いは続く」とし、「イスラエルの戦争犯罪を国際機関で裁く必要がある」と主張した。その上で、「停戦(=消極的平和)を求めるだけでは不十分であり、根本的な解決のためには、占領・封鎖といった構造的暴力をなくすこと(=積極的平和)が求められる」と講演を結んだ。
質疑応答では、アメリカ議会におけるイスラエルのロビイストの影響、世論による圧力の有効性、解決に向けて各人ができる具体的な行動についてなど、活発に意見交換が行われた。
※協会は6月8日に「ガザ地区における攻撃の即時停止と人道支援を求める声明」を理事会で決議し、内閣総理大臣、駐日イスラエル大使館に対し発出しました。
(『東京保険医新聞』2024年8月25日号掲載)