公開日 2025年02月17日
1月22日、経営税務部は奥津年弘税理士(東京あきば会計事務所)を講師に税制改正セミナー「2025年税制改正で何が変わる?」を開催した。
※奥津税理士による詳細な解説記事を『診療研究』3月号に掲載予定
講師の奥津税理士
「103万円の壁」見直しでさらに複雑化
2024年12月20日、自民・公明両党は与党大綱を発表し、同月27日に政府は「令和7年度税制改正の大綱」を閣議決定した。
所得税では収入から一定額を差し引く控除の仕組みがあり、給与を得て働く人は「基礎控除」の48万円と「給与所得控除」の55万円をあわせた103万円を年収が超えると所得税が生じる。本改正では、この103万円の控除額を2025年から123万円に引き上げることが明記された。先の衆院選で与党が過半数割れしたことでキャスティングボードを握った国民民主党が「103万円の壁」の見直しなどを要望しているためだ。
奥津氏は改正では住民税の基礎控除は対象外であることを踏まえ、「所得税と住民税で基礎控除額の差が広がるため複雑化を招く」と指摘した。例えば給与収入が120万円だった場合、所得税は発生しないものの、住民税は2万円ほど発生することになるという。
学生バイト促進は本末転倒
大学生の年代の子を扶養する親は、子の年収が103万円までであれば所得税は63万円、住民税は45万円まで控除できる「特定扶養親族控除」があるが、学生アルバイトに頼っている飲食業などを筆頭に人手不足が常態化している背景を受け、19歳以上23歳未満の扶養親族がいる親の控除として「特定親族特別控除」が新設されている。これにより最大年収150万円までは現在と同じ控除が受けられ、150万円を超える場合も控除額は段階的に縮小し親の手取りが急激に減少しないようになる。
しかし、仮に時給1250円で年150万円を超えるには、1カ月25日、1日平均4時間労働する計算になる。奥津氏は「同控除は大学生の子がいる世帯を支えるという名目だが、実質的に学生アルバイトの促進策として作用する。学業時間が削られることは本末転倒だ」と批判し、学費軽減や、生活支援、奨学金の拡充等で支えるべきと訴えた。
政治の方針転換で抜本的な税制改正を
2023年税制改正で実施が決まったものの実施時期は未定だった防衛費増税については、財源として法人税とたばこ税の引き上げが2026年4月から実施されることが決まったが、所得税の実施時期は未定のままだ。奥津氏は税制改正と体制整備の期間を勘案すると、時期は早くとも2027年になるのではないかと解説した。
与党大綱は高い賃上げ率を挙げ「わが国の経済には着実に明るい兆しが表れている」としているが、中小企業は賃上げ努力をしていても物価上昇に追いついておらず、「OECD加盟国38カ国の平均賃金で日本は25位に甘んじており、経済的な先進国ではなくなっている」と奥津氏は警鐘を鳴らした。
さらに医療業界は昨年の診療報酬改定で内科を中心に打撃を受けていると指摘し、税制の抜本的改正による経済対策を求めた。
奥津税理士は「現状の税制・歳出を継続していけば、生活や安全の水準状況は、まちがいなく悪化していく。まやかしでない政治への方向転換が必要だ」と訴えた(1月22日、セミナールーム)
(『東京保険医新聞』2025年2月5日号掲載)