公開日 2025年03月05日
病院有床診部は2月6日、病院有床診懇談会「『身体的拘束最小化』直前対策~あなたの医療機関は準備できていますか?~」を協会セミナールームで開催し、19人が参加した。2025年6月から入院医療機関では「身体的拘束最小化」を順守することが求められる。
講師として久野木里美氏(陵北病院 介護医療院陵北病院看護部 看護師長/身体拘束廃止委員会副委員長)、村山正道氏(大久野病院 法人本部企画部長)、佐藤乃美氏(陵北病院 介護医療院陵北病院事務長)を招き、必要な対応を共有した。
身体的拘束の具体例 重要なのはプロセスと記録
佐藤氏と村山氏は、既に介護の現場で基準とされている「身体拘束ゼロへの手引き」に基づき、身体的拘束に該当する具体例として、ベッドの4点柵および体幹・手足拘束、車椅子ハーネスや安全ベルト、つなぎ服、ミトン手袋等を示した。またチルト式車椅子については、足が地面と接していないため、腹筋の衰えた患者は自分の意思で立ち上がることができなくなる恐れがあるとし、患者の状態や目的によっては身体的拘束に該当する可能性があると説明した。
村山氏は、「患者の安全を確保するための行為との判断基準が難しいが、カンファレンスにおける目的の評価や、同意書の取得等、プロセスおよびその記録が非常に大切である。目的のすり合わせや記録は骨が折れることではあるが、多職種で連携しながら粘り強く実施してほしい」と強調した。
自院での工夫 風土作りや経口摂取への移行
久野木氏は自院での身体的拘束最小化に向けた取り組みを紹介した。身体的拘束はやむをえないという発想を生まないための風土作りの一環として、新入職員には身体的拘束の体験をさせていることや、病棟ごとの意識の差を埋めるために、コミュニケーションを取っていることを説明した。
また、経管栄養ではチューブを自己抜去する恐れがあるが、経口摂取に移行できればその心配は無くなる。嚥下造影検査でのアセスメント、管理栄養士との協働による患者の状態に応じた食形態の提供等で経口摂取に移行できる患者もいると述べた。 久野木氏は「患者の安全性、医療従事者の働き方等、様々な要素の間で気持ちのバランスを取りながら働いているが、患者の明るい表情を見ることが大きなモチベーションの一つである」と、身体的拘束を行わないことで得られる喜びを強調した。
荷重・体動センサー、低床ベッドやマットレスの活用を
身体的拘束最小化は限られた人員では実現が難しいため、ICT機器の導入も不可欠だ。パラマウントベッド株式会社から、ベッド内蔵型の荷重センサーである「離床CATCH」、体動センサーである「眠りSCAN」、L字柵、ベッドからの転落被害を最小化する低床ベッドやマットレスの情報提供があった。
疑問や不安を共有
懇談の際には、「医療従事者によって身体的拘束に対する意識が異なり最小化に向けた取り組みを進めることに苦労している」「何が拘束にあたるのか分かりにくい」「抗精神病剤を投与され、鎮静された状態で転院してくる患者にはどのように対応すればよいか」「医師が手術中等で手が離せない時間帯に患者がカテーテルを自己抜去した際はどのように対応すればよいか」等、多くの意見や質問が出た。
最後に司会の水山和之病院有床診部長が「今日の話を職場に持ち帰っていただき、身体的拘束最小化の体制を確保してほしい。患者の『生きる力』をみなさんで支えていただきたい。また病院は物価高騰、人手不足、新たな地域医療構想への対応等、厳しい状況におかれているが、地域医療を支えるために、お互いの病院機能の理解に努めながら、協力・連携していきましょう」と挨拶し、閉会した。
当日の模様(2月6日、協会セミナールーム)
(『東京保険医新聞』2025年2月25日号掲載)