医療のあり方 変質させる"医療法改定案"

公開日 2025年06月02日

 厚労省が提出した「医療法等の一部を改正する法律案」(以下、医療法改定案)は、4月3日に審議入りしたが、その後、議論の見通しが立たない状況が続いている。野党が医療法改定案との並行審議を求めている議員立法について、与党が審議入りに難色を示しているためだ。議員立法は、「介護・障害福祉従事者の賃金を月1万円増やす法案」、「訪問介護事業者へ緊急の支援金を出す法案」の2本だ。

 参院選を控えた与党には、医療・介護と縁の深い議員も多いが、立場上これらの議員立法には反対せざるを得ない。法案を衆院で食い止めるべきとの狙いが与党・政府にあるようだ。

 以下、特に医療現場への影響が大きいと見られる項目について紹介する。

オンライン診療を「法制化」

 オンライン診療を医療法に位置付け、医療提供施設や住居等での実施に限定してきた規定を変更し、「オンライン診療受診施設」の類型を新設する(図1)。診療所の開設許可がなくても、受診施設として届け出れば、オンライン診療を患者が受ける場として認めることになる。

 コロナ禍を通じてなし崩し的にオンライン診療が認められてきたが、医療法に位置付けられることで、オンライン診療にお墨付きが与えられることになる。

 オンライン診療受診施設を通じた「集客・集患」が営利企業(ドラッグストア等)の利益追求に使われる可能性がある。「医療の質」への不安はもとより、感染防止、防犯、プライバシー保護や機材管理など医療安全管理が曖昧になる事態が懸念される。

 

医師「偏在」是正に向けた医療提供体制改革

 新たな地域医療構想と医師偏在対策を組み合わせた医療提供体制改革では、人口減少を理由に、医療機関の整理・統合を維持する色彩が濃く、地域での医療保障の後退が危惧される。

 医師の偏在是正のために、重点的に医師を確保すべき「重点医師偏在対策支援区域」と「外来医師過多区域」を設定する。

 重点医師偏在対策支援区域においては、医師の確保方針や確保すべき医師の目標数、目標達成に向けた施策を追加し、重点区域で働く医師への手当金を定める。手当金の財源は、保険者からの拠出金とする。

 外来医師過多区域では、診療所の新規開業希望者へ地域で不足する医療や医師不足地域での医療の提供の要請・勧告・公表制度が導入され、保険医療機関の指定についても6年から3年等に短縮される。

 医師偏在是正をめぐっては、1点単価変動制をはじめ地域別診療報酬の導入が狙われており、今法案の成立はその足掛かりとなる危険性がある。

 そもそも日本はOECD加盟国の中で医師数が少ない。人口1000人当たりの医師数がOECD平均3・6人に対し日本は2・5人で、OECD加盟国38カ国中33位だ。さらに、人口10万人当たりの医学部卒業生は、OECD平均13・2人に対し日本は7・1人で最下位である。医師数の偏在ではなく、絶対的不足こそ解決すべき課題である。

 地域で不足する医療に対してはインセンティブこそ設けるべきである。医療職の計画的な育成・増員を進めつつ、現場の働き方改革を図るとともに、対面診療できる機会が保障されるよう、診療報酬、補助金、税制などを改善・充実することが必要だ。

医療DX推進 恣意的な情報利用の危険性

 医療DXの推進として、①必要な電子カルテ情報の医療機関での共有等や、感染症発生届の電子カルテ情報共有サービス経由の提出を可能とする、②医療情報の二次利用の推進のため、医療・介護関係のデータベースの仮名化情報の利用・提供を可能とする、③支払基金を医療DXの運営に係る母体として組織体制等の見直しを行う―と定めた。

 医療等ビッグデータの取り扱いに関しては、マイナンバーカード利用やデータの二次利用が前提とされている。デジタル化に対応できない社会的弱者を切り捨てかねず、政策の費用対効果が不透明なまま、機微性が高い個人情報が広範囲に流通することで、大規模な情報漏洩や医療給付抑制に向けた利用などが危惧される。

 また、支払基金の名称を「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」とし組織を改変し、医療DX業務については、柔軟かつ迅速に執行していくとされた。ガバナンスが発揮されるのか不明であり、推進担当者の裁量で患者・国民の情報が恣意的に取り扱われかねない危険がある。

 医療法改定案は、医療法、健康保険法をはじめ主な法案だけで24本の束ね法案となっているが、オンライン診療の法制化に始まり、新たな地域医療構想や医師偏在対策、医療DX推進など、今後の医療の在り方を大きく左右する内容だ。本来、項目ごとに十分に時間をとって審議するべきであり、今国会で拙速に採決をすることがないよう求めていく。
 

(『東京保険医新聞』2025年5月25日号掲載)