公開日 2025年12月26日
政府は12月19日、2026年度の診療報酬改定で、「本体部分」を3・09%引き上げる方針を固めた。うち物価対応に1・29%、賃上げ対応に1・7%を充当する一方、外来・在宅の適正化、一般名処方加算の見直し等で、マイナス0・15%との見方がある(表参照)。

本体部分の医科、歯科、調剤の改定率は不明だが、従来の配分比率1対1・1対0・3は維持される見通しだ。
前回2024年度改定では、本体部分を0・88%引き上げる一方、薬価をマイナス1%とし、全体の改定率は0・12%引き下げた。全体のプラス改定は、消費税への対応が引き上げ要因となった2014年度改定以来、3%超となるのは30年前の1996年度改定の3・4%以来となる。
前回改定で深刻な経営難に
2021年度後半頃から本格化した物価高騰に2022、2024年度の診療報酬改定率が追い付かず、医療機関の経営状況は厳しい。
2024年度改定では、内科の医療機関を狙い撃ちにし、「生活習慣病を中心とした管理料・処方箋料等の効率化・適正化」として本体から0・25%を引き下げた。具体的には、脂質異常症、高血圧症、糖尿病を特定疾患療養管理料から外し、新設の生活習慣病管理料Ⅱ又は既設の同管理料Ⅰへ移行させ、さらに処方箋料及びコロナ関連検査の引き下げを行った。
影響は甚大で、第25回医療経済実態調査では、2024年度の赤字の医科診療所(医療法人)が全体の37・4%に及び、赤字割合は2023年度より10・1ポイント増加した。個人立の無床診療所の最頻損益差額はわずか749万円で、ここから院長の収入や税金、借入金の返済に当てなくてはならない。
病院においては7割以上が赤字で、病床削減や病棟閉鎖、さらには、老朽化に伴う建て替えができずに閉院する病院も増加した。2025年の医療機関倒産件数も過去最多ペースで推移しており、医療界からは診療報酬の大幅引き上げが切望されていた。
賃上げ対応の行方
具体的な改定内容については、中医協で2026年1月中旬頃まで議論が続き、2月上旬頃には明らかとなる。
賃上げについて、診療報酬では2022年度改定が入院料に対する看護職員処遇改善評価料を新設、2024年度改定ではベースアップ評価料の新設や若手医師らの賃上げを目的とした初再診料・入院料の引き上げが行われた。
しかし、外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの都内医療機関(病院・診療所)の10月の届け出数は4割にも満たない。ベースアップ評価料の届出や管理が複雑であり、診療所では届出を行わず、院長給与を削減し、職員の賃上げを行っているケースも少なくない。
次期改定での賃上げ対応について、中医協では主に、⑴ベースアップ評価料を残す方法と、⑵基本診療料に溶け込ませる方法等を示し議論が行われた。診療側からは手続きが煩雑にならない基本診療料を中心に上乗せする方法を要望する声が多い。
昨今の医療DXへの対応、診療報酬の複雑化、さらには混沌たる状態の保険の資格確認方法等への対応に医療現場は疲弊している。
賃上げについては基本診療料の引き上げで対応するべきだ。
控除対象外消費税の補填点数の見直しは行わず
現行の診療報酬には控除対象外消費税が補填されているという建前だ。実際にはベースの診療報酬が低く設定されている上に、物価高騰等による厳しい医療経営の下、上乗せを実感できる医療機関は皆無であろう。診療報酬への上乗せ対応では、医療機関の種別によってばらつきが大きく、実際、2020~2022年度にかけて集計ミスによる補填不足が生じていた。
さらに、上乗せ対応では非課税の診療報酬に窓口負担や保険料負担という形で患者に消費税を負担させることにもつながる。中医協では次期改定での控除対象外消費税の補填点数の見直しは行わず、さらに先の改定に向け補填の在り方について検討していくとした。
健診と同日の再診料を整備
健診受診時に保険診療を実施する場合、初診料については算定できない旨の規定があるが、再診料の算定方法については明確な規定がなかった。一方、個別指導の際は「再診料は算定不可」として改善や自主返還を求められていたため、医療現場では解釈を巡って混乱が生じていた。
2024年12月6日の事務連絡で「保険診療として治療中の疾病又は負傷に対する医療行為を、健康診断として実施する場合は、再診料を算定できない」ことが示された。
次期改定で改めて「初診料だけでなく再診料も算定できない」ことを明確化していく方針だ。
長期収載品選定療養 「特別の料金」2分の1以上に
2024年10月に開始された長期収載品の選定療養は、「医療上の必要性がない」対象品目を患者が希望した際、後発品の薬価が最も高い価格帯との価格差の4分の1相当を「特別の料金」として患者に負担させる制度だ。
中医協では、患者が負担する割合について、「2分の1以上」とする引き上げ案が提案され、異論は出なかった。
見直しを巡るこれまでの議論では、後発品の使用を促すために特別の料金をさらに引き上げるべきといった意見のほか、小児や慢性疾患の患者らへの配慮、後発品の供給不安を助長しないよう求める声なども出ていた。
次期改定率の大幅引き上げを求める
協会は病院・診療所の区別なく経営改善が図られるよう、基本診療料の10%以上の引き上げを求めてきた。わずかプラス3・09%の本体改定率では、経営向上に程遠い。
厚労省はこれまでも医療DX推進の名のもとに、期中改定を繰り返し行ってきた。協会は引き続き、基本診療料の大幅引き上げを求めるとともに、今後明確になる個別の改定内容についても不合理な改定が行われないか注視していく。
(『東京保険医新聞』2025年12月25日号掲載)


