政策講演会 医療情報保護・利活用 EUの制度と比較

公開日 2026年07月28日

 政策調査部は7月11日、宮下紘氏(中央大学総合政策学部教授)を講師に招き、政策講演会「医療情報の保護と利活用―日本の個人情報保護法とEUのGDPR/EHDS比較―」を協会セミナールームで開催し、会場・Webあわせて42人が参加した。


講師の宮下紘氏

個人の権利保護が前提のEHDS

 宮下氏は、2025年2月にEUで成立したEHDS(European Health Data Space)規則に基づくEUにおける健康データの一次利用、二次利用について概説した。一次利用においては、少なくとも①患者サマリー、②電子処方箋、③電子調剤記録、④画像検査結果、⑤その他検査結果、⑥退院報告書の6情報が、中央相互運用プラットフォーム(MyHealth@EU)を通じて患者・医療機関間で共有される。その際、患者には「自らの電子的健康データに即時かつ無料でアクセスできる権利」「医療提供者によるアクセスを制限する権利」「一次利用をオプトアウト(拒否)する権利」「誰がどの情報にアクセスしたかログ情報を得る権利」が保障されており、個人の権利保護を大前提とした制度になっている。

 研究・公衆衛生・医療制度設計・政策立案等を目的とする「二次利用」には、医療提供を目的とする「一次利用」よりも厳しい条件が設けられている。データ利用許可には厳格な要件(目的の適合性、必要性、技術的要件、倫理評価など)が求められ、さらに目的は限定列挙されており、「個人に不利益を与える決定」「保険契約条件・保険料設定」「信用評価(スコアリング)」、「マーケティング」等を目的とした利用を禁止することが明記され、違反した場合は巨額の制裁金が課される。

 これらの一次・二次利用に際し、データ利用者から申請があった時は、データ保有者(医療機関など)は該当データを「データアクセス機関」に提出する義務がある。提出されたデータの管理についてはデータアクセス機関が一切の責任を持ち、安全にデータを処理することとなっており、その信頼関係の下にデータ提出義務化が成り立っている。

プライバシー権を侵害する個人情報保護法改正

 宮下氏は、日本の「次世代医療基盤法」についても解説し、EHDSとの比較を行った(下表)。次世代医療基盤法は、国民・患者の医療情報を医療分野の研究に利活用できるようにする法律である(2018年施行)。EHDSとの最も大きな違いは、医療情報の管理を行う事業者を国が認定する仕組みにあり、プロジェクトごとに審査されるEHDSに比べ、認定事業者がサイバー攻撃の対象となった際のリスクが大きい点を指摘した。

 また、2026年7月10日に成立した個人情報保護法改正についても、AI開発等の「統計情報等の作成」目的であれば本人同意なしに個人データを第三者に提供可能とする法律であり、個人のプライバシー権が軽視されているとの懸念を示した。

 質疑応答では、「オプトアウト形式だと『拒否』を選択する人の割合が著しく下がり、実質的同意が得られないのではないか」「仮名加工情報は再識別化される懸念があるのではないか」「今回なぜ個人情報保護法が改正されたのか」「個人情報を1つのデータベースに集約することは有事のリスク増にならないか」等の質問が上がった。  宮下氏は、「仮名加工の再識別化は容易な場合もあり、オプトアウト方式で仮名加工情報を共有することには反対だ。オプトイン形式による同意を前提とし、やむを得ずオプトアウトとする場合は匿名加工にすべきだ」「個人情報保護法は『個人情報の利活用』と『個人の権利保護』のバランスを取ろうという法律であり、利活用を前提にしている。今回の改正は、個人情報を産業利用しようとする経済団体からの要請に押されたものと認識している」「JR東日本がSuicaの乗降履歴を外部提供した際は、明確な違法行為はなかったものの、利用者から大きな批判を浴びた。合法な方法による利活用だとしても、社会通念上認められた範囲でなければうまくいかないだろう」との考えを述べた。

※ オプトアウト方式は(第三者への情報提供について)拒否がない限りは同意とみなす方式。オプトイン方式は同意した場合のみ実施する方式。

 
 当日の模様(7月11日、協会セミナールーム)

(『東京保険医新聞』2026年7月25日号掲載)