死体外表に異状なければ警察届出義務ない――「医師法21条」解釈 厚労省が見解表明

公開日 2013年01月25日

「異状死体等の届出義務」を定めた医師法第21条の解釈について、厚労省が正式に見解を表明した。

「医師が死体の外表をみて検案し、異状を認めた場合に、警察に届け出る」「検案の結果、異状がないと認めた場合には届出の必要はない」というもので、厚労省「第8回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」(12年10月26日)で同省の田原克志・医政局医事課長が発言した。

さらに田原氏は、「診療関連死を届け出るべきとは言っていない。国立病院以外はマニュアル作成指針に拘束されない」とも発言した(参考資料①)。

同省が医師法第21条の解釈について、都立広尾病院届出義務違反事件の最高裁判決(確定)に基づくとの立場を明らかにしたもので、医療関係者からは歓迎する声が上がっている。 医師法第21条の届出要件については、前述の都立広尾病院届出義務違反事件で、04年4月の最高裁判決により、診療関連の死亡事故が発生しても、死体検案の際に、死因を判定するために死体の外表を検査して異状がなければ、医師法第21条に規定する警察への届出義務の対象ではないと解すべきことが明らかにされている。

「死亡に至る過程が異状であった場合にも異状死体の届け出をすべき」という「医師法第21条」を拡大解釈した誤った記述は、「日本法医学会異状死ガイドライン」(94年5月)、「厚生省保健医療局国立病院部政策医療課(当時)作成『リスクマネージメントマニュアル作成指針』」(00年8月)、「日本外科学会ガイドライン」(02年7月)に見られ、今日に至るまでその内容は改められていない。そればかりか、最高裁判決後も、「日本法医学会『異状死ガイドライン』についての見解」(09年9月)等に誤った記述が見られる(参考資料②)。

この不作為のため、医療機関は本来警察署への届出を必要としない診療関連による死亡事故についても届け出を行い、それにより医療事故立件送致数が増加するなど、医療界は今日に至るまで混乱が続いている。今回の田原医政局医事課長の発言により、医療現場を悩ませ続けてきた医師法第21条の解釈のあり方がわが国の司法と行政において一致していることが明確となった。今後の医療事故調を巡る議論にどのような影響を与えるかが注目される。

協会は既に、医師法第21条の正確な解釈と適正な運用の周知と実態調査を目的とした、全国の国立病院機構や大学病院等主要病院長や法医学者等に対する「医師法21条の正しい解釈」に関するアンケートの実施を決めた他、前述の各ガイドラインで医師法第21条の誤った「拡大解釈」を認める記述を放置してきた厚労省の不作為を質す公開質問状を1月15日付けで送付している。協会は引き続き医師法第21条の正しい解釈の啓蒙に努めるとともに、無用な届出による医療刑事事件の抑制に取り組んでいく。

参考資料① 田原克志・厚労省医政局医事課長の発言要旨

(2012年10月26日「厚労省・医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会)

  • 厚生労働省が診療関連死について届け出るべきというようなことを申し上げたことはない。法医学的異状を判断する際に日本法医学会ガイドラインも参考にして、最終的には検案した医師が異状であるかどうかを判断する。
  • リスクマネージメントマニュアル作成指針は国立病院などに対して示したもので、その他の医療関係者がこれに拘束される理由はない。マニュアル作成指針は医師法21条についてのみ解釈を示したのではなく、標準的な医療事故防止の手順書という形で出した。
  • 医師法21条について2004年に最高裁で、「自分が診察していた患者かどうかは関係なく、死体の外表を検査して、異状を認めた場合には警察署に届け出ることが必要である」ということが示されている。

(日本医事新報No.4625 2012年12月15号より転載)

参考資料② 医師法21条を巡る主な議論
「医師法」 第二十一条 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。
広尾病院事件最高裁判決
(2004年4月13日)

医師法21条にいう死体の「検案」とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するのが相当であり、これと同旨の原判断は正当として是認できる。

日本法医学会
「異状死」ガイドライン
(1994年5月)
(届け出るべき「異状死」を具体的に例示)
【4】診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの
注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡。
診療行為自体が関与している可能性のある死亡。
診療行為中または比較的直後の急死で、死因が不明の場合。
診療行為の過誤や過失を問わない。
厚生労働省
「リスクマネージメントマニュアル」作成指針
(2000年7月)

(国立病院、国立療養所及び国立高度専門医療センターにおける医療事故の発生防止対策及び医療事故発生時の対応方法について、マニュアルを作成する際の指針)
5 警察への届出
(1) 医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う。

(日本医事新報No.4625 2012年12月15号より転載)

(『東京保険医新聞』2013年1月25日号掲載)