50周年記念シンポジウム「東日本大震災からの復旧・復興、地域医療の再建をめざして」

公開日 2013年12月05日

復興の現状と医療再建の課題――岩手・宮城・福島3協会が報告

協会は、創立50周年を記念して、11月16日に新宿京王プラザホテルで、シンポジウム「東日本大震災からの復旧・復興、地域医療の再建をめざして」を開催した。当日は、会員・役員・マスコミ等94人が参加した。

シンポジウムでは、東日本大震災で被害が大きかった、岩手県、宮城県、福島県の東北3県の各保険医協会から、小野寺けい子先生(岩手協会常任理事)、前川慧一氏(復興岩手県民会議代表世話人)、北村龍男先生(宮城協会理事長)、堀川章仁先生(福島協会会員、福島県双葉郡医師会会長)、松本純先生(福島協会副理事長)をシンポジストに招き、各県の状況に関する報告と、ディスカッションを行った。

 

岩手県 ストレスで心の病患う被災者が増加(小野寺けい子先生、前川慧一氏)

小野寺けい子先生
前川慧一氏

小野寺けい子先生 小野寺先生は、岩手県で特に被害が大きかった陸前高田市で、2011年8月から県医師会の取り組みとして、仮設診療所を開業医中心に開設していると報告した。

2011年10月から心療内科、2012年7月からは子どもの心のケアの診療も開始した。

岩手、宮城、福島3県で、プレハブ仮設住宅の入居率が震災から2年経っても9割にのぼり、精神的ストレスにより体調不良におちいる人が増加傾向にあると述べた。

前川慧一氏 岩手県保険医協会が、仮設住宅、医療機関、県内沿岸県立病院を対象に、2013年8月から9月まで実施したアンケートでは、通院している被災者の病名にこれまでになかった「うつ病」が加わっていると指摘し、「今後、仮設住宅での生活が長引くにつれて、いっそう心の病を患う被災者が増加することが懸念される」と強調した。

また前川氏は、仮設住宅に住む被災者の切実な声を紹介。政府に被災者の実情を知らせていくと述べるとともに、さらなる支援を訴えた。

宮城県 医療費自己負担免除廃止で受診抑制が生じる(北村龍男先生)

北村龍男先生

北村龍男先生 北村先生は、被災3県で宮城県のみ2013年4月に廃止された、被災者の医療費自己負担金免除の継続を訴えた。宮城県保険医協会が会員向けに実施したアンケートでは、4月以降「受診が必要なのに来院しなくなった患者がいる」と答えた医療機関が5割近くに上った。

北村先生は「それまでは復興予算で賄っていた国保と後期高齢者の医療費負担のうち2割を、2012年に政府が打ち切り、宮城県や市町村に押し付けたことが、今年4月の医療費自己負担金免除廃止につながった」と指摘した。

また、地域医療機関への補助金は申請するのに要件が厳しく、震災前の医院建物の写真を求められた医師もいたと、県の杓子定規な対応を批判した。

医療情報のIT化により既存医療の効率化を図ることと患者のゲノム情報を研究に利用することを目的とする「東北メディカル・メガバンク構想」について、「医療費自己負担金免除は打ち切られ受診を控える患者がいるのに、なぜ研究には莫大な予算をつぎ込むのか。また個人の遺伝子情報を提供することに関し、生活再建で必死な被災者に対し十分な説明がなされていない」と批判した。

 

福島県 原発事故により看護師・介護士不足(堀川章仁先生、松本純先生)

堀川章仁先生
松本純先生

堀川章仁先生 震災前は、福島第一原発から6kmの双葉町に開業しており、医院は現在、帰還困難地域に指定されている堀川先生は福島県の状況を報告した。特に隣接する川内村で進む人口流出について、「震災後、川内村は全村避難をした。2012年1月31日に村は帰村宣言を出したが、住民の多くは未だ帰ることができず、川内村の人口は激減したままだ。特に、子どものいる若い夫婦がいなくなり、医療機関では医師がいるのに看護師や介護士が不足して入院を制限している」と震災後2年半を経て、政府により避難を解除させられた地域でも、原発事故による弊害が残っていると指摘した。

松本純先生 また、松本先生は、原発事故のニュースがマスコミでは徐々に報じられないか、扱っても小さなものになっていると危機感を示し、「過大に伝えられ大騒ぎされても風評被害で苦しむことになるが、報道機関が全国に伝えないのも問題だし危険だ」と苦渋の色を浮かべた。

被災地への更なる支援を提案(東京保険医協会)

拝殿清名会長

後半のパネルディスカッションでは、協会から拝殿清名会長が加わり、各シンポジストとともに、これからの被災地復興、地域医療再建に向け意見交換を行った。

拝殿清名会長 拝殿会長は被災3県からの報告を受け東京保険医協会として、①岩手、宮城、福島の東北3県における被災者医療の一部負担金の免除を継続することを引き続き国に対して求めていく、②福島県に限らず、放射能汚染被害者などを支援対象とする原発事故被災者手帳などの交付を検討するよう国に対して要望する、③医療機関の復旧・復興や被災者の医療支援に復興税を活用するよう、政府・国会議員などに働きかけたい、との考えを表明。

また、岩手、宮城、福島各協会と危機管理体制について災害時の相互支援の協定を結ぶことも今後、模索していきたいと提案した。

(『東京保険医新聞』2013年12月5・15日合併号掲載)