〔港区宛て〕MRワクチン未接種児へのフォローアップに関する陳情

公開日 2017年02月23日

提出年月日 2017年2月20日

港区議会議長
 うかい 雅彦 様

東京保険医協会
会長 鶴田 幸男

陳情の趣旨

  1. 子どもへの定期接種のうち、麻しん・風しん混合ワクチン第1期・2期について、やむを得ず対象年齢を超えてしまった児(2歳から高3相当の年齢で定期接種対象者以外の者)への任意接種助成制度を導入してください。

 

陳情理由

 私たちは東京都内に開業・勤務する約5,500人の医師でつくる団体です。
 麻しん・風しん混合ワクチンの任意接種助成制度設立に関する陳情理由は下記のとおりです。

港区における麻しん・風しん対策の強化を求めます

 麻しん・風しん混合ワクチン(以下、MRワクチン)は医学的に2回接種が望ましいとされ、「満1歳からの1年間」を第1期、「小学校入学前の1年間(年長児)」を第2期として、公費負担の定期接種に位置づけられています。そして、やむを得ず期間中に打てなかった場合、予防接種費用は任意接種として原則自己負担(8,000円~11,000円前後)となります。

 港区の2015年度MRワクチン定期接種率は1期83.6%(都平均97.3%/全国平均96.2%)、2期71.7%(都平均89.8%、全国平均92.9%)で、都・国の平均を下回り、都内最下位の水準です※1、2。これは流行を阻止できる接種率95%をも大きく下回っています。特に1期は平成25年度に急激に接種率が低下して以降、回復していません。

 港区において突出して接種率が低い理由として、人口流動や里帰り出産先・海外での接種などが推測されており、平成28年度からは里帰り出産等で区外において接種した場合の費用還付制度が始まりましたが、それ以外の個別事情で接種期間を過ぎてしまった子どもたちの救済制度は依然として整備されていません。子どもたちは生後2ヵ月からたくさんの予防接種を月単位のスケジュールで打っていくため※3、1度でも予定が変わると思わぬ接種漏れに繋がります。また、人口流動の激しい自治体であるならば、区外から転入する接種漏れ児対策も万全にする必要があります。

 昨年関西空港や首都圏を中心に流行した麻しんは、2017年に入っても三重県で10代から40代までの成人による職場内での集団感染が報告されています。また、風しんは5~7年が流行周期といわれ、東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年は風しん流行年になると予想されます(前回の流行は2013年頃)※4。東京オリンピック・パラリンピックによって海外からさらに多くの人々が来訪すれば、感染のリスクが高まります。

 麻しん・風しん対策を今こそ強化すべきではないでしょうか。

都の区市町村包括補助事業を活用した任意接種助成制度設立を

 東京都では麻しん・風しん対策として、かねてからMRワクチンの未接種児(18歳まで)について、区市町村が接種費用の助成を行う場合にその経費の半額を補助する取り組みを行ってきました(区市町村包括補助事業)。2016年度は新宿区、品川区、大田区、台東区でも新たにこの制度が活用され、23区中21区で未接種児への任意接種助成事業が展開されています。23区内でMRワクチンの任意接種助成制度を実施していないのは、残すところ港区と板橋区の2区のみとなりました※5。

 現在、21区で展開されている任意接種助成制度は、自治体によって条件に差はあるものの、ほとんどの区において2回の接種機会を確保することを目標として制度がつくられ、全額公費で本人負担はありません。今年度は都内で半年間に1,848人が利用しています※6。任意接種であるおたふくかぜやロタワクチンなどの助成制度は設けていないで自治体すら、麻しん・風しん対策だけは別として費用助成を行っているのです※7。

10月以降、都内でMRワクチンが不足――2期接種漏れ対策が急務

 さらに、現在問題になっているのはMRワクチンそのものの不足です。昨年夏の全国的な麻しん流行により、東京都内でも一部の医療機関では麻しん・風しん混合ワクチン(以下、MRワクチン)の入手が困難となりました。当会が実施した会員アンケートでは、11月末で7割の都内医療機関が「不足している」と回答し、「1期を優先して2期を待たせている」との声も多数寄せられました。さらに、「ワクチン不足のために子どもの定期接種が期間内に打ち終わらない可能性がある」との回答が半数を超えました※8。

 日本外来小児科学会でも同様のアンケートを行い全国から不足の声が寄せられ、日本医師会も定例会見でこの話題を取り上げ、厚労省に対して2期接種漏れ児が出る場合に備えた延長措置の検討を要望しています※9。

 1月以降、都内の流通は回復傾向にありますが、年末にかけて予約待ちだった子どもたちが順次接種している状況で、未だに十分な在庫は確保できていません。また、東京だけでなく熊本や兵庫でも不足の声が相次いでいます※10。3月には現在年長の子どもたちの2期の接種期間が終了しますが、ワクチン不足で予約の取りづらい状況が続いているうえ、インフルエンザ流行も重なり、期間内に接種を受けられない子どもが出てくる可能性があります。

 厚労省は総量としては足りるとして、現時点での定期接種延長措置には消極的です。しかし、一方では各区市町村に対して在庫の“偏在”を確認した場合には関係機関と連携して適切な措置を取ることを促しており、今般の「不足」を事実上認めています※11。こうした状況の中、接種漏れ児への任意接種助成制度を整備しておくことは重要であると考えます。

 上記理由により、麻しん・風しん対策の一環として、港区においても、やむを得ず定期接種の年齢を超えてしまった2歳から高3相当年齢の区民に対して公費負担による予防接種の機会を確保してください。

以上

〔港区宛て〕170220MRワクチン未接種児へのフォローアップに関する陳情[PDF:204KB]

参考資料

※1 2015年度 区市町村別 MRワクチン接種率・未接種者数(第1期・第2期)
※2 東京都及び全国における麻しん・風しん予防接種実施状況(接種率)の推移(平成23年度~27年度)(平成28年度 第1回東京都麻しん・風しん対策会議資料(平成28年11月25日)より)
※3 日本小児科学会「日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 2016年10月1日版」
※4 国立感染症研究所 感染症発生動向調査(IDWR)より/麻しん・風しん累積報告数の推移 2011?2017年
※5 東京保険医協会調べ「MRワクチン未接種者に対する任意助成制度の状況(23区・2016年度)」
※6 平成28年度 麻しん・風しん予防接種事業 実施状況 (区市町村別)(9月末時点実績)(平成28年度 第2回東京都麻しん・風しん対策会議資料(平成29年1月31日)より)
※7 東京保険医協会調べ・2016年度 都内の区市町村における予防接種助成状況【概要版】
※8 東京保険医協会ワクチン供給不足問題 緊急アンケート(実施期間2016年11月18日~12月2日)
※9 日本医師会プレスリリース「MRワクチン不足への更なる対応を求める」(日医定例記者会見2016年12月21日)ほか
※10 大人の需要増 MRワクチン、子どもに届かず(熊本日日新聞2017年2月9日)、はしかワクチン不足懸念 国が接種状況を緊急調査(神戸新聞2017年1月31日)
※11 「麻しん及び風しんの定期接種(第2期)対象者に対する積極的な接種勧奨並びにワクチンの供給について」(2017年1月27日付け厚労省事務連絡)

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