住民税税額通知へのマイナンバー記載 総務省に撤回を要請

公開日 2017年03月02日

 総務省は区市町村から各事業所に送付する「給与所得等に係る市町村民税・道府県民税特別徴収税額の決定・変更通知書(特別徴収義務者用)」(以下「通知書」)に個人番号を記載するよう指示していますが、区市町村が指示通りに実施すれば、2017年5月から従業員の個人番号が記載された通知書が各事業所に届きます。
 マイナンバー制度が運用され1年が経過しました。しかし診療所をはじめ開業保険医にとって安全管理措置を講じることは事務・費用負担も大きく、「安全管理対策の整備が十分でない」「不安だ」との声が上がっています。
 協会は2月23日に高市早苗総務大臣宛てに、「給与所得等に係る市町村民税・道府県民税特別徴収税額の決定・変更通知書(特別徴収義務者用)への個人番号記載の中止を求める要請書」を提出し、以下の項目を要請しました。また同日、東京選出国会議員に同趣旨の要請を行いました(▽2/23国会行動)。

[要請項目]

1.2017年度からの「給与所得等に係る市町村民税・道府県民税特別徴収税額の決定・変更通知書(特別徴収義務者用)」(第三号様式)に個人番号を記載する取り扱いを中止・撤回すること。

2.自治体が、同「決定・変更通知書(特別徴収義務者用)」に、納税義務者(受給者)の個人番号を記載せずに、特別徴収義務者(事業者)に送付することを認めること。

​3.自治体が、同「決定・変更通知書(特別徴収義務者用)」の用紙に個人番号を記載しない、又は以前の同様式を利用した場合に対して、ペナルティーなどを課さないこと。

 総務省自治税務局による行政通達、2016年10月2日付総税企第95号ほか「地方税分野における個人番号・法人番号の利用について」及び、2015年10月29日付市町村税課発事務連絡「地方税法施行規則の一部改正等について」によれば、地方税当局が特別徴収義務者に送付する「通知書」に、2017年度分から個人番号記載欄が追加され、納税義務者の個人番号を記載して送付するよう指示されています。しかしこの取り扱いには、以下のとおり重大な問題があります。

(1)「個人の人格的な権利利益」を侵害する

 今回の取り扱いでは、従業員の意思で事業者に個人番号を提供していない場合であっても、個人の意思に反して行政から事業者に通知されることとなります。「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下、番号法)には、個人に対して個人番号の提供を強制する規定はありません。個人が自らの特定個人情報を誰にどのように提供するか、或いは提供しないかは自由であり、これに反して他者が特定個人情報をみだりに第三者に提供することは、「個人の人格的な権利利益」を著しく侵害するものです。

(2)特別徴収義務者(事業者)に重い負担を負わせ経営を圧迫する

 番号法は事業者に対して、「施策に協力するよう努める」(法第6条)こととし、「個人番号の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」(法第12条)としています。万一、個人番号等の情報漏えい等を行った場合は「4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(法第67条)などと定め、法人に対しても罰金刑を科すとしています。

 しかし、一事業者が日々増大する情報漏えいリスクに万全な対策を行えるものではありません。私たち診療所をはじめ開業保険医などにとって安全管理措置を講じるには事務・費用負担も大きく医業経営を圧迫することになります。そもそも、事業者が講じるべき対応について、未だその内容が広く周知されているとは言えません。安全管理措置を講じることが能力的に適わない事業者に対し、一律に個人番号の記載された通知を送付することは、事業者に過重な負担を強いる上に、情報漏えいの危険性を高めることになります。

 特に東京都では、昨年末より従業員個人が直接納付していた「普通徴収」から、事業所が納付する「特別徴収」への切替えを強化しています。そのため、今年度より特別徴収を行う中小・零細企業の増大することが予想されます。

 慣れない特別徴収事務にさらに個人番号の取扱事務も加わり、小規模の事業所での負担は計り知れません。

(3)自治体の情報漏えいリスクが高まり、コストも増える

 通知書に個人番号が記載されると、従来の個人情報漏えいよりも更に深刻な事故となり、自治体が負うリスクが高まることになります。また、通知書を簡易書留や特定記録郵便で送ることで郵便料が大幅に増大するとともに、受け取りまでに日数を要し徴収事務に支障をきたす恐れがあります。

 協会経営税務部が都内各区市町村に対して行ったアンケート(※)によれば、東京都内でも、以上の影響を考慮して、個人番号を記載しない、個人番号欄にアスタリスクを印字するという自治体が約半数にのぼります(下表参照)。こうした方法によれば、情報漏えいのトラブルを避けることができ、郵送コストも従来どおりで済むことになります。

  個人番号記載 郵送方法
23区
千代田区 検討中 検討中
中央区 検討中 普通郵便
港区 記載予定 簡易書留
新宿区 回答しない 回答しない
文京区 検討中 未回答
台東区 検討中 普通郵便
墨田区 法令どおり 特定記録郵便
江東区 検討中 検討中
品川区 法令どおり その他
目黒区 検討中 検討中
大田区 様式に基づき適切に対応 普通郵便
世田谷区 記載しない
渋谷区 検討中 検討中
中野区 記載しない
杉並区 その他
(給与支払報告書の提出の際、個人番号が記載されていた人のみ記載)
簡易書留
豊島区 検討中 普通郵便
北区 検討中 普通郵便
荒川区 検討中 検討中
板橋区 検討中 検討中
練馬区 記載する 簡易書留
足立区 記載しない
葛飾区 記載しない
江戸川区 その他 検討中
多摩地区
八王子市 記載する予定 普通郵便
立川市 記載しない
武蔵野市 記載しない予定
三鷹市 記載しない 普通郵便
青梅市 記載しない
府中市 記載しない
昭島市 一部のみ記載 普通郵便
調布市 記載しない
町田市 記載しない
小金井市 検討中 普通郵便
小平市 回答しない 回答しない
日野市 記載しない
東村山市 記載しない
国分寺市 記載しない
国立市 記載しない
福生市 検討中 検討中
狛江市 記載しない
東大和市 記載しない
清瀬市 検討中 検討中
東久留米市 記載しない
武蔵村山市 記載しない
多摩市 記載しない予定
稲城市 一部のみ記載 普通郵便
羽村市 検討中 普通郵便
あきる野市 記載しない
西東京市 一部のみ記載 普通郵便
瑞穂町 記載しない
日の出町 検討中 検討中
檜原村 検討中 簡易書留
奥多摩町 記載する予定 特定記録郵便
島しょ部
大島町 記載しない
利島村 検討中 検討中
新島村 一部のみ記載 普通郵便
神津島村 一部か全部を記載しない 普通郵便
三宅村 記載しない
御蔵島村 記載する予定 検討中
八丈町 記載する 検討中
青ヶ島村 記載しない
小笠原村 記載する 普通郵便

* * * * *

 以上から、協会は事業所宛に送付される住民税の税額通知へのマイナンバー記載の撤回を求めます。

※都内各区市町村向けに行ったアンケート実施要項
【実施日】2017年1月下旬~2月中旬
【実施方法】都内62自治体へ郵送により依頼。
 郵送、FAXによる返信および電話での聞き取り
【結果】(2017年2月21日現在)
・記載しない又は一部のみ記載(※):30件
・記載する(予定・法令どおり含む):10件
・検討中:18件/その他:2件/回答しない:2件
 ※一部のみ記載…一部をアスタリスクで抹消表示
 ※郵送方法については、番号を「記載しない」自治体には回答を求めていない