乳腺外科医師裁判報告会「いっそうの支援を」

公開日 2019年05月13日

乳腺外科医師事件とは

 2016年8月25日、足立区内の病院において、女性患者に対する準強制わいせつの疑いで乳腺外科医師が逮捕され、100日以上に及ぶ勾留の末、刑事事件で争われてきた。本年2月20日、東京地方裁判所は医師に無罪判決を言い渡したが、3月5日、検察は控訴した。

地裁判決の趣旨

1.女性患者の証言は一貫しているが、術後せん妄の可能性もある。証言の補強証拠が必要。
2.科学捜査研究所のアミラーゼ鑑定・DNA鑑定結果は、客観的に検証しがたい。アミラーゼやDNAは唾液の飛まつや接触により付着した可能性もある。よって鑑定に信用性があったとしても、事件があったとするには、その証明力は十分ではなく、合理的疑いを差し挟む余地がある。

 冒頭、挨拶に立った細田悟委員長は、今回、医療界には2つの反省点があると述べた。一つは一審無罪で確定した福島県立大野病院事件のように、控訴を断念させるまで医療界が一丸となって世論を盛り上げることができなかったこと、そして、せん妄への対策を怠ってきたことが今回の悲劇を招いたとし、せん妄ガイドライン等の整備を訴えた。

乳腺外科医師裁判報告会

〇長期化の覚悟も必要
 外科医師が執刀した病院の顧問弁護士である黒岩哲彦氏は、検察は控訴手続きを引き伸ばすことができると述べた。高裁は期日を定めて控訴理由を示した控訴趣意書の提出を検察に求めるが、検察は提出延期の申し立てができるからだ。

 同氏が担当した痴漢えん罪裁判では、一審無罪から東京高裁での控訴棄却・無罪確定まで1年かかった。控訴審では、検察が鑑定のやり直しを求めてくるなど、猛烈に反撃してきたという。「今回は、より複雑で長期化が予想される」「東京高裁は日本の裁判官のトップエリート、最も官僚的な裁判官が集まっている。そのなかで東京高等検察庁と警視庁が一体となって反撃してくるだろう」と述べ、一審判決に確信を持ちながら、これからも一緒にがんばっていきたいと決意を語った。

 同じく、弁護団弁護人の水谷渉氏は、「女性患者は、捜査でDNAが出てから、自分はせん妄ではないと思い込んでしまった。今回の控訴は、その思い込みをいっそう強くさせてしまうだけだ」と述べ、「控訴は女性を不幸にする」として控訴断念を求めた協会の2・20会長声明を高く評価した。

 そのうえで、科捜研によるアミラーゼ鑑定とDNA検査結果は、女性患者の左胸を外科医が「なめた」ことを証明しない、という弁護団の主張を一審判決がほぼ認めたことを解説した。


〇鑑定結果の再現性や  エビデンスは不可欠
 検察、警察、弁護士による証拠偽造も後を絶たず、証拠の再現性・エビデンスは不可欠だ。人命や人生を左右する刑事事件ではなおさらだ。水谷氏は、科捜研の鑑定や検査結果が確実に再現できるように、実験の過程、パソコンのデータ、抽出液、残試料はエビデンスとして残してほしい、と訴えた。

 一方、報道等で取りざたされているが、科捜研のずさんな証拠関係のために無罪になったのではないと語った。病院関係者の証言や弁護側の専門家の証言によって、女性患者がせん妄状態にあったのはほぼ間違いなく、これが無罪の判断となったことを強調した。

 最後に鶴田会長は、「当初は医療界への挑戦なのかと思うほどだった。本当に危機感を持っている。きちっとした決着をつけるまで、ともに頑張っていきたい」と述べ、支援を訴えた。

(『東京保険医新聞』2019年3月25日号掲載)

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