公開日 2019年07月01日
政府は2018年12月の経済財政諮問会議で「新経済・財政再生計画改革工程表2018」を決定している。社会保障分野では、61項目の取りくみが改めて示され、これまで取りくまれていた44項目については進捗状況を明示して、着実な実行を狙っている(下表)。
2019年度予算は社会保障費の自然増6千億円を4千800億円とし、1千200億円削減されている。社会保障費の伸びを「年平均5千億円」に抑える方針のもと、2018年度までの6年間ですでに、合計1兆6千億円もの「自然増」削減が強行されている。
19年度も患者負担増が目白押し
2019年度にも、社会保障全分野にわたる制度改悪が検討されている。
後期高齢者の医療費窓口負担の原則2割への引き上げが計画されている。
軽症疾患の医薬品のOTC化が推進される中、スイッチOTC薬(医療用医薬品からOTCに転換された薬)について、薬剤自己負担の引き上げが検討されている。また、湿布薬やビタミン剤、ヘパリン類、花粉症治療薬などについて保険給付範囲を見直すことも提案されており、中医協でも2020年度診療報酬改定に向けた議論が始まっている。
蔓延する貧困と消費税
「子どもの貧困率」は2015年時点で13・9%で7人に1人という高水準であり、「相対的貧困率」も15・6%となった。金融広報中央委員会が実施した「2018年家計の金融行動に関する世論調査」では、貯蓄なしの単身世帯が38・6%もあり、二人以上世帯でも22・7%に達している。
そうした中、2019年10月に消費税10%への引き上げが予定されている。国保料の高騰、医療費窓口負担増と相まって、深刻な受診抑制をひき起こす可能性がある。
医療機関にとっても、損税の負担が重くのしかかる。10月の診療報酬改定で補填するとされているが、実際の損税負担増分を補填するには全く足りず、そもそも医療費を非課税とする理念とも矛盾する。
1989年に導入された消費税の累計税収と法人税減税の累計額は拮抗している。消費税増税、行きすぎた法人税減税と証券優遇税制、労働者派遣法の改悪などによって貧困と格差が拡大している。
「国民皆保険」の危機
いつでもどこでもだれでも、安心して医療機関を受診できる「国民皆保険制度」が形骸化しつつある。
日本はこれまで、診療報酬制度という公定価格制度と国民皆保険制度によって、医療の公共性・公益性を担保し、国民のいのちと健康を守ってきた。しかし、「医療の営利化・市場化」や、患者申出療養をはじめとする「混合診療解禁」など規制緩和が進められている。
かかりつけ医を普及させ、かかりつけ医以外を受診した場合に、実際の医療費の他に定額負担を導入することが検討されている。新たな窓口負担で、実質的に患者のフリーアクセスを侵害するものでもある。
社会保障が「自助・互助」に変質
介護保険給付のさらなる削減をおこない、住民の自助・互助を強制する「『我が事・丸ごと』地域共生社会」が進められている。国が責任を持つべき社会保障が、「我が事」として国民の責任に押し返され、地域住民まるごとの“互助”に委ねられようとしている。
また、個人にインセンティブを与える形でセルフメディケーションが推進され、健康を自己責任とする動きも強まっている。
政府の狙いは、「自助・互助」で購入する私的なサービスの普及によって、公的な社会保障費を削減することである。
これらの議論は参院選後に本格化する可能性が高いと見られている。参院選にあたっては、各政党の社会保障に関する政策と姿勢を注視していきたい。
医療 |
―患者負担増― ■19年度に検討 |
―マイナンバー制度― ■20年度に実施 |
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―医療の営利化・市場化― ■19年度に実施 |
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―医療提供体制― ■19年度に実施 |
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―診療報酬― ■19年度に検討 |
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介護 | ■19年度に検討 ○ケアプランの有料化 ○多床室にも室料負担の導入 ○要介護1、2の生活援助サービスと通所介護を地域支援事業へ移行 |
年金 | ■結論を得られ次第、法案提出などの措置 ○高所得者の老齢基礎年金の支給停止 ■19年度に検討 ○支給開始年齢の引き上げ ■21年から実施 ○物価上昇や賃金に合わせ、年金額を大きく削減 |
生活保護 | ■19年度に検討 ○「就労努力」を判定して、停止や減額など ○医療扶助の見直し:頻回受診者に、窓口負担と償還払い導入など |
(『東京保険医新聞』2019年6月15日号掲載)