公開日 2019年07月22日
参院選を政策転換の契機に
2011年3月11日に東日本大震災が発生して8年と4カ月が経過したが、いまだ復興の進みは遅い。
政府が掲げた「創造的復興」は、復興特区をつくり、農業や漁業権を集約、企業の参入を認めることで、収益を上げるための産業圏に変質させるものであり、被災者の生業と生活再建を主体としたものではなかった。
また、被災者同士の助け合いやボランティアの支援など「自助」「互助」「共助」が強調されたが、これは復興と社会保障に対する国の責任をあいまいにするものであり、以降の日本の社会保障政策を貫く方針となっている。
◆続く医療・介護の負担増
2012年8月、民主党(当時)・自民党・公明党3党合意で成立した「社会保障制度改革推進法」により、社会保障に投入する公費の主要財源を消費税に絞るとともに、医療や介護の給付の抑制、外来定額一部負担の導入、混合診療拡大などの方針が定められた。
これらの政策は、2012年12月に安倍政権が成立した後も引き継がれ、「社会保障プログラム法」(2013年12月)や、「医療保険制度改革関連法」(2015年5月)を通じて具体化されていった(表)。
その他、2013年には生活保護法が改悪され、親族の扶養義務の強化、申請にあたって書類提出の義務付けなど、窓口でのいわゆる「水際作戦」が正当化される形となった。また、2013年、2018年の二度の見直しの際に、生活扶助費が減額されている。
2013年に成立した「国家戦略特別区域法」は、「企業が世界で一番活躍しやすい国にする」ために、医療、雇用、教育、農業など、必要な規制によって競争から保護されている特定の産業や事業体を対象に規制緩和を進め、営利企業の参入を許すものである。
2014年4月、消費税8%が導入された。政府は、消費税の増税分は社会保障に充てる、と宣伝していたが、実際はほとんどが度重なる法人税減税の穴埋めに使われている。逆進性の高い消費税の負担は国民の暮らしを直撃し、消費を冷え込ませた。
そして2018年4月から、市町村が運営していた国民健康保険が都道府県単位化された。これに伴い、これまで保険料(税)を軽税するために地方自治体が行ってきた一般会計からの法定外繰入も廃止の方向が打ち出され、多くの自治体で保険料の値上げが行われている。
◆地域に丸投げの「我が事・丸ごと」社会
2014年6月には「医療・介護総合法」が成立し、「医療から介護へ」「入院から在宅へ」の方針のもと、病床機能報告・地域医療ビジョン・地域包括ケアシステムの構築などが自治体に義務付けられた。
都道府県は病床機能報告に基づき「地域医療計画」を立て、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つの病床機能ごとに算定した必要病床数をもとに、病床をコントロールする。2025年に必要とされる全病床数を全体で40万床削減するとした。退院患者の受け皿づくりを地域に丸投げする体制をつくり、公的医療・介護保障制度への国庫支出抑制を狙ったものである。
この流れに沿って、2016年4月に厚生労働省内で「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部が発足、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」(2017年4月)が成立した。高齢者・障がい者・子どもなどへの公的サービスを融合し、有資格者である従事者の専門性を無視して、ボランティアや民間事業者などに門戸を大幅に開放する方針が示された。公的費用の削減、営利化、サービスの低下などが懸念される。
同本部は「地域の住民や団体が、地域の課題を『我が事』として参画し、世代や分野を超えて『丸ごと』つながって、暮らしや生きがいを共に創っていく社会」を目指すとしているが、まさしく「自助」「互助」「共助」の具現化であり、本来、国民の健康で文化的に生活する権利を守るための国家の義務である社会保障を変質させるものだ。この方針を撤回させない限り医療は削減、圧迫されていく一方だ。
◆表 震災後に行われた主な負担増
2014年4月 消費税8%導入 2014年4月 70~74歳の高齢者の医療費窓口負担を1割→2割へ 2015年4月 「要支援」を介護予防給付から外し、区市町村事業へ 2015年4月 65歳以上の一定以上の所得者に介護保険2割負担導入 2016年4月 紹介状なしで大病院を受診した患者への定額自己負担 2016年4月 混合診療への道を開く、患者申出療養制度の開始 2016年12月 年金の支給額を低く抑える年金改革法が成立(マクロ経済スライド) 2017年8月 70歳以上の高額療養費の自己負担限度引き上げ 2018年8月 〃 2018年8月 65歳以上の現役並み所得者に介護保険3割負担導入 |
(『東京保険医新聞』2019年7月15日号掲載)