公開日 2020年02月03日
政府は2019年12月19日、全世代型社会保障検討会議(議長:安倍首相)を開き、制度改革に向けた中間報告をまとめた。
同会議は、2019年9月に第4次再改造内閣が設置したもので、年金、医療、労働、介護等の各領域について持続可能な改革を検討するとしている。しかし、同会議の構成員には医療や介護現場の当事者は含まれておらず、実態は社会保障の削減と国民負担増を進め、「社会保障と税の一体改革」の流れを受け継ぐものである。
高齢者負担増、一定所得者自己負担2割へ
今回示された中間報告の最大の柱は、75歳以上の後期高齢者の窓口負担の一部引き上げが明記されたことだ。
現在は現役並み所得(年収383万円以上)がある人の窓口負担は3割でそれ以外は1割だが、1割負担の患者のうち一定の所得のある人は2割に引き上げるとした。2022年度初頭までの実施を目指し来夏までに所得基準などをまとめる予定だ。
高齢者は複数の病気を抱え治療も長期間に及ぶことが多いため、実質的な負担は現役世代の何倍にもなる(図1、2参照)。負担割合を引き上げれば高齢者の受診抑制の深刻化は必至であり、これ以上の負担増は到底許されるものではない。
紹介状なし大病院受診の負担増
中医協でも議論が行われている紹介状なし大病院受診の患者定額負担について、対象病院の拡大と負担額の引き上げを検討する。外来受診時に一定額を上乗せするワンコイン負担の導入は見送られた。
公的年金の受給開始年齢の選択幅引き上げ
公的年金では、現在60歳から70歳の間で選ぶ受給開始年齢の上限を75歳に引き上げる。また、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」は、60~64歳の減額基準を月収28万円から47万円に引き上げる。さらに、希望する高齢者が70歳まで働けるように企業には就業機会確保の努力規定を課すなど、長く働き公的年金の受給をできるだけ遅らせるような施策整備が盛り込まれている。
介護保険制度改定の動向
厚労省は12月16日、3年に1度の介護保険制度改定案を社会保障審議会に示した。①介護施設に入る低所得者への生活費の補助を縮小する(対象者約30万人)ほか、②一定の所得がある世帯には介護サービスを受ける際の自己負担の月額上限を引き上げる(対象者約3万人)方針だ。焦点となっていたケアプラン作成費の自己負担導入、要介護1、2の生活援助サービスの市区町村事業への移行、2割・3割負担の対象者拡大等の項目が見送られたことは、運動の成果といえる。
①の低所得者への生活費の補助(補足給付)の見直しについては、現状では住民税非課税世帯で、預貯金が1000万円以下の人が対象となっていたが、基準を細分化した。案では年収80万円以下で預貯金650万円以下の場合、年収80万円超~120万円以下で預貯金550万円以下、年収120万円超で預貯金500万円以下の場合までに下がった。一定の収入や資産がある人は補助が受けにくくなる。
②の介護サービス利用時の自己負担上限(高額介護サービス費)については、現状では世帯年収約383万円以上の人は上限が月4万4400円と定められ、これ以上の自己負担はない。改定案では細分化されて、年収約770万円以上では月9万3000円の自己負担、年収約1160万円以上では月14万100円の自己負担が追加された。
見送りになった項目が多いとはいえ、一定の所得がある利用者には自己負担増を迫る政府のやり方は断じて容認できるものではない。
(『東京保険医新聞』2020年1月25日号掲載)