高額療養費の上限額25年8月引き上げ見送り

公開日 2025年03月27日

 高額療養費の自己負担上限額の引き上げについて、政府は3月7日、2025年8月に予定していた1回目の引き上げを見送る方針を示した。事実上、制度見直しをいったん全面的に凍結した形だ。

政府を動かした国民的世論

 当初の政府案は、2025年8月から2027年夏までの3段階の引き上げを行うというものだった。

 協会は2月8日に抗議声明を発出した他、国会議員への要請を行ってきた。

 がんや難病などの多くの患者団体からも抗議の声が上がり、福岡厚労相は2月14日に一部修正案を示したが、修正案は多数回該当(直近12カ月の間に3回以上自己負担上限額を超えた場合、4回目から限度額が下がる仕組み)の場合のみ、自己負担上限額を据え置くというものだった。多数回該当の利用者は現状でも全体の2割程度に過ぎず、上限額引き上げによって、多数回該当の条件から外れる人が新たに発生するため、大多数の患者にとって何の負担軽減にもなっていなかった。

 2月28日、石破首相は高額療養費の自己負担上限額の引き上げについて、一部を見直す方針を表明したが、その内容は①2025年8月からの引き上げは予定どおり実施(多数回該当の上限額は据え置く)、②2026年8月以降の引き上げについては患者団体等の意見も聴取して再検討し、2025年秋までに方針を決定する、というもので、実質的に「見直し」と呼べるものではなかった。

 3月4日には、高額療養費の上限額引き上げを含む2025年度予算修正案が衆議院を通過し、翌5日から参議院での審議が始まったが、患者団体は再検討を訴え続け、与党内からも引き上げに異論が相次いだ。

 そして今回、実に3度目の見直しによる引き上げ中止は、国民的な世論の高まりによって、「国民の理解が得られていない」との認識が与党内で広がった結果である。協会・保団連や患者団体等による要請活動をはじめ、上限額引き上げの非人道性を訴える運動の成果と言えるだろう。

 

完全撤回まで声を上げ続けよう

 しかし、政府は2026年以降の制度のあり方については2025年秋までに結論を出すとしており、高額療養費の自己負担上限額を引き上げる方針そのものを撤回してはいない。

 福岡厚労相は2月21日の衆院予算委員会で、高額療養費制度の見直しを一部修正後、「長瀬効果を約1950億円見込んでいる」と述べている。長瀬効果とは、保険数理技師の長瀬恒蔵氏が1935年に著した「傷病統計論」に由来し、保険給付率によって、患者の受診行動に変化が生じることを指す。つまり、ここで言われる1950億円とは、「受診抑制により削減できる医療費」のことである。

 政府は「必要な医療を受けられなくなることがないようにする」と述べているが、自己負担上限額の引き上げは、受診抑制を人為的に作り出すことを目的としており、発言は矛盾している。治療を諦める人を増やし、患者を見殺しにする政策は許されない。

 高額療養費の自己負担上限額引き上げの完全な撤回を求め、協会は引き続き東京都選出国会議員等への働きかけを強めていく。
 

(『東京保険医新聞』2025年3月15日号掲載)