公開日 2016年12月25日
- 議員に要請する田崎理事(左)
- 衆院厚労委で質問する初鹿議員
- 厚労省レクチャーにて
MRワクチン、小児科の7割『不足』と回答
8月からの全国的な麻しん流行に際し、政府は麻しん・風しん混合ワクチン(以下、MRワクチン)に「不足が生じない見込みである」と回答してきた。しかし、10月以降、東京都内の一部の医療機関でMRワクチンの入手が困難であるとの声が複数寄せられている。主要な卸業者4社へ問い合わせたところ、いずれも在庫不足で、年内の供給の目処は立たないという(11月8日時点)。
そこで協会は、11月21日に厚生労働大臣宛に「MRワクチン不足への対策と定期予防接種の対象児への経過措置を求める緊急要望書」を提出。さらに18日から協会会員(小児科・内科等)への緊急アンケートを実施し、約2週間で都内362件の医療機関から回答を得た(回収率11.21%)。
子どもの定期接種「期限内に打ち終わらない50%」
集計の結果、小児科の70%、内科の64%が「ワクチンが不足している」と回答。さらに、「ワクチン不足のために子どもの定期接種が期間内に打ち終わらない可能性がある」との回答が半数を超えた。
定期接種期間中に打ち終わらない場合、予防接種はは原則全額自費となる。都内自治体は、未接種者に対する助成制度の有無にもばらつきがあるため、さらなる接種率低下が心配される。
「足りている」医療機関でも在庫確保に苦心
接種希望者へどのように対応しているか尋ねたところ、「大人の接種を見合わせている」「ふだん診ている患者を優先」「Ⅰ期を優先してⅡ期を待たせている」等の回答が多く寄せられた。さらに「Ⅰ期さえも待たせている」は31件。全回答数の1割を占め、1歳時の接種すら満足に打てない状況が推測される。
「例年通り接種できている」と回答した医療機関でも、在庫を確保するために苦心している様子が窺える付記が散見された。一方で、地域によっては問題なく注文できると回答したところもあり、流通状況に差が見られる。
卸業者からの情報不足や、厚労省・自治体の対応に不満を訴える声も多く寄せられた。
国会質問でも取り上げる
厚労省「実態把握と偏在解消に努める」
協会では緊急アンケートの中間速報をまとめて12月1日に国会行動を実施。田﨑 ゆき 理事が厚生労働委員会の議員を中心に訪問し、ワクチン供給体制の改善を要望した。
翌12月2日には、初鹿 明博 衆院議員(民進党)が厚生労働委員会にて質問。東京保険医協会の会員から、「卸会社から『厚労省の指導により供給の予測は早めに知らせることができない』と言われた」という訴えが寄せられた点について、実際にそのような指導があるか尋ねた。
これに対し厚労省健康局長は、「卸業者に対しては、今後の供給予定について情報を提供するようお願いしている。今後のワクチンの予想を伝えないよう指導した事実はない」と答弁した。また、定期接種の子どもが期間内に打ち終わらない可能性とその場合の経過措置検討については、古屋 範子 厚労副大臣が「9月までの中間接種率なども見ながら判断する」と回答した。
厚労省レクチャーも実施
12月6日には、前述の国会行動で要請した小池晃参院議員(共産党)により厚労省レクチャーが行われ、協会事務局も同席した。
担当者によると、「MRワクチンは2015年の北里第一三共社製品が自主回収されて以降、出荷停止となっている分は残る2社でカバーしており、総量は足りるはずとの認識に変わりはない。しかし、協会のアンケートによって東京の医療機関から不足の声が上がっていることも分かったので、実態把握と偏在解消に努めたい」との回答を得た。
また、卸業者からの供給見込み情報が不十分である点についても、「現場の一部でそのような対応をしている噂があることを確認した」と述べた。
協会は、9月までの中間接種率だけでなく、10月から12月にかけての接種率にも注目することや、東京オリンピックに向けた大人の風しん対策充実、ワクチン供給体制の抜本的な見直しについて重ねて要望した。
日本脳炎ワクチンも「足りない」
会員アンケートではB型肝炎および日本脳炎ワクチンについても在庫状況を尋ねたが、B型肝炎は25%、日本脳炎は55%の医療機関で、やはり供給が「足りない」と回答している。
いずれも化血研の熊本工場被災による出荷量低下の影響で、特に、日本脳炎は現在も一部医療機関でまったく入荷できない状況が続いている。
幸い、日本脳炎はMRワクチンに比べて接種期間が長いため大きな混乱にはなっていないが、「待ってもらっている」との回答が多い。しかし、昨年は千葉県で生後11カ月児の感染事例が報告されており、日本小児科学会も生後6カ月からの日本脳炎ワクチンを推奨していた。これ以上、接種希望者を待たせてはならない。
協会では、区市町村に対してもワクチン供給不足の実態把握を求めるとともに、定期接種期間終了後の子どもの接種費用助成制度のない自治体に対して、都の包括事業を活用した助成制度の創設を要望している。
会員各位には、引き続き供給に関する情報やご意見をお寄せいただきたい。
※集計結果の詳細は『診療研究』524号及びこちらをご覧ください。
(『東京保険医新聞』2016年12月25日号掲載)