診療報酬1.03%引き下げ 医療破壊の連続マイナス改定

公開日 2015年12月25日

(表)患者の状態及び居住場所に応じた評価の考え方

政府は12月21日、2016年診療報酬改定の改定率を全体でマイナス1.03%とすると発表した。本体はプラス0.49%、薬価と材料価格でマイナス1.52%、ネット改定率はマイナス1.03%となった。2014年度に続く診療報酬の引き下げは地域医療を破壊するものであり、容認することはできない。われわれは診療報酬の引き上げを強く求め続けるものである。今後、2016年1月中旬に諮問、2月上旬に答申となる。

以下、これまで中医協で議論が進められてきた、入院外の個別項目について、在宅医療体制や地域包括ケアに係る項目などを中心に紹介する。

在宅医療

◇患者の状態や訪問診療の人数、居住場所によるさらなる点数の細分化

 在宅医療については11月11日の中医協で議論された。そのなかで、診療時間が長い、あるいは入院頻度が高いなど「医学管理の必要性が高い患者」を「重症患者」とするなど、在医総管・特医総管の算定要件を、疾患や状態などに応じて再編することが検討されている。

(表)患者の状態及び居住場所に応じた評価の考え方

また、在医総管・特医総管、特定施設入居時等医学総合管理料で、月1回の訪問診療を認めるなど、診療頻度に応じた評価も議論されている(上図)。

同時に、現行では同一建物で「1人」か「2人以上」で評価している体系から、診療人数を「1人」「2~9人」「10人以上」などに細分化して点数設計するとし、同一日複数診療の場合の減算の継続を打ち出した。

さらに、現行では患者の居住場所が特定施設かそれ以外によって点数が評価されているが、特定施設以外の施設について、居宅等と高齢者向け集合住宅とで、さらに評価を分けることも検討されている。

在宅医療では、重症者に対する治療を評価することは必要だと考えるが、これを梃子にそれ以外の患者について「重症でない」として在医総管・特医総管の点数を引き下げることは阻止しなければならない。

また、さらなる点数の細分化で、複雑な算定方式に対応しなければならないことなどが懸念される。居住場所や訪問人数によって点数をさらに細分化すべきではない。

◇在宅自己注射指導管理料:注射回数の点数差の縮小

現行の在宅自己注射指導管理料では、注射の回数に応じて点数が異なるが点数差が大きい。そのため点数差の縮小が議論されている。

また、二つ以上の医療機関で、同一の患者に異なる疾患に係る在宅自己注射指導管理を実施している場合、現行では、当該指導管理料を算定できるのは主たる指導管理を行っている医療機関のみで、それ以外の医療機関は算定できない。
そこで、各々の医療機関における当該指導管理を評価することが検討されている。

リハビリテーション

◇廃用症候群のリハビリ:独立した項目として評価

廃用症候群に対するリハビリは、脳血管疾患等リハビリから独立させることが議論されている。

具体的には、急性疾患に伴う安静によって生じた廃用症候群は原疾患に対する治療の有無にかかわらず廃用症候群に対するリハビリの対象とする。

また、主として廃用症候群による障害に対してリハビリを実施するものと認められる場合には他の疾患別リハビリ料等の対象者かどうかにかかわらず廃用症候群のリハビリの対象とすることなどが議論されている。

廃用症候群のリハビリが今回独立した項目とすることは評価すべきだが、2014年改定で下げられた点数や、書類作成等の算定要件が改善されなければ算定できる点数とはならない。 

◇維持期リハビリ:介護保険への移行が規定路線

2014年度改定では、2016年4月1日以降、入院中以外で維持期のリハビリを行う要介護被保険者は、原則として介護保険によるリハビリへ移行することとされた。移行対象としない患者については、継続して検討する予定だ。

また、円滑な移行に係る医師の説明、他職種連携に関する評価を検討している。

具体的には、医師が機能予後の見通しを説明し、患者の生きがい等を把握し、必要に応じて多職種が連携してリハビリの内容を調整する。まさに、医療と介護とのリハビリの内容を同質化させ、「医療から介護へ」の流れを強めるものである。

地域包括診療加算、地域包括診療料

◇認知症患者への対応は、介護療養上の指導と多剤投与適正化が焦点

地域包括診療料の届出数は2014年7月に122施設だったが、2015年7月では93施設に減少。地域包括診療加算は6,536施設から4,713施設に減っている。このようなのなかで、診療側から算定要件緩和を求める意見が相次ぎ、「高血圧、糖尿病、脂質異常症以外の疾患を持つ認知症患者」まで拡大することが中医協で提案された。これを踏まえて厚労省は、高血圧症、糖尿病、高脂血症以外の疾患を有する認知症患者に対して、医学的な指導管理だけではなく介護に関連する療養上の指導を含めることを提案した。

また、両点数を算定する場合に現行では「7剤投与減算」は適用外となる。しかし、現在の中医協の議論では、多剤投与などの薬剤の投与を適正化しつつ適切な服薬管理を行う場合について評価するとされていることから、現行では適用外の「7剤投与減算」の取り扱いに注視が必要である。

医薬品の保険外し

10月21日の第90回医療保険部会では、市販品類似薬の保険適用外しを本格的に進めていくべきだとして、12月11日の中医協で議論がなされた。

2014年度改定で、治療目的以外は保険適用対象外とされたうがい薬は、改定後のデータが限られているという理由で引き続き状況を注視するにとどまる予定だ。また、湿布薬は、処方日数の制限も含め考えるべきという医療保険部会の議論を受けた上で、1日に用いる枚数が症状によって異なることも鑑みて、処方された湿布薬が何日分に相当するかを、レセプトに記載するかどうかが議論されている。

後発医薬品使用のさらなる促進

現行では、病院及び院外処方の診療所に対する後発医薬品の使用促進への評価はあるが、院内処方の医療機関に対する評価は存在しないことから、院内処方でも後発医薬品の使用促進に関する取り組みを評価することが検討されている。

また、後発医薬品の銘柄を指定し変更不可として処方する場合には、処方せんに理由の記載を求めることについても議論された。

診療報酬の引き上げを

小泉政権下での連続マイナス改定による地域医療への打撃が、未だ回復していないにもかかわらず、さらなるマイナス改定は容認できるものではない。連続マイナス改定は医療の質を低下させ、地域の医療機関の経営を困難に陥れる。これでは、地域住民の健康を守るという医師の役割を発揮することができない。われわれは診療報酬の引き上げを強く求めるものである。

(『東京保険医新聞』2015年12月25日号掲載)