韓国医療視察 印象記(2)―不正請求・自主返還は存在しない!?

公開日 2018年06月15日

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「査定・減点は見解の相違」審査機関と対等に振舞う保険医たち

理事・庶務部長 井上 博文​

韓国視察2日目(5月4日)のメインは健康保険審査院(HIRA)との懇談だったが、先号にもあったように直前になって先方よりキャンセルされてしまった。そこでいろいろと訪問先を探していたところ、幸いにもHIRA所在地の原州(Wonjyu)市の個人の診療所の院長が懇談に応じてくれることになった。

韓国の保険診療の生の声を聞くことができ、HIRAと懇談するより良かったのではないかとの声さえあがるほど、実りの多い懇談であった。しかも懇談先のYoum Dhong ho院長は、なんと地元Wonjyu市の医師会長とのことで、実際の診療にあたる医師としての声とともに、地元医師会としての考え方も聞くことができた。

11年前の韓国訪問の際に、韓国は混合診療が基本で、保険診療の比率が低いことを知り、当時日本にそのことが伝わっていないことに驚いたが、今回さらに、その混合診療の方法も日本とはかなり違うものであることが新たにわかった。

紙面の都合でその違いについての詳細は後日発刊予定の診療研究に譲るが、そのことと共に、日本の保険医は審査や査定がすぐに指導・監査に結びつくことから、審査・査定にかなり敏感になっているのに対し、韓国ではそれらにあまり重きを置いてないことや、審査に対して堂々と苦情や文句が言える立場にあることが話の端々から伝わってきた。

この違いは、韓国は保険医が登録制ではなく、すべての医師、医療機関は自動的に保険医、保険医療機関になるという絶対指定制にあることに起因している。

韓国では健康保険導入時に低い診療報酬でスタートしたため、登録制にすると誰も保険医を選択しない可能性があった。このため強制的に全医師を保険医にしてしまったという経緯がある。一見日本より自由が奪われたよう思えるが、強制指定のため、逆に査定減点が多いから指導するとか、高点数だから指導するということができない仕組みになっていて、犯罪行為が明らかなような時以外は指導や監査を受ける恐れがほとんどない。査定減点は医療機関とHIRAの見解の相違で片付いてしまうので、不正請求だの自主返還だのという言葉は存在しない。

今回、日本の審査・査定の強化に韓国のコンピュータ審査システムを参考にするのではないか、ということから韓国視察を行ったが、本来は保険医と支払基金・国保連合会・国(厚生労働省)とは、日本の健康保険上でも保険請求及び給付に関しては対等な立場であるにもかかわらず、何かと保険医停止や取り消しをちらつかせて、実際の運用は対等な立場になっていないのが根本的な問題であることを痛感した。

目の前の査定減点や指導・監査対策も大切ではあるが、保険医と国が法律の精神通りに、保険請求に関して真に対等となれるようにすることが、今の日本の保険医にとって最も重要なのではないかと感じた。

(『東京保険医新聞』2018年6月15日号掲載)