対都請願の論点(2021年度東京都予算案)

公開日 2020年09月24日

対都請願の論点①ー3歳児健診時に弱視スクリーニング検査を 港区が2020年度から実施

 弱視は、子どもの約50人に1人の割合で見られるが、強い遠視や乱視、斜視が原因で起こる弱視の場合、3歳児健康診査で見つけることができれば、早期に治療を開始でき、将来の視力低下を予防することができる。逆に、視覚感受性のある時期に発見し、治療しなければ一生視力不良が続く。

 協会は東京都に対し、3歳児健康診査で弱視スクリーニング検査を実施できるよう、各自治体に働きかけると同時に、自治体への財政支援を実施するよう要望してきた。

 港区では2020年度から、3歳児健診の対象者約3000人に屈折異常、斜視のスクリーニング検査を新たに実施している(予算額約650万円)。都内で独自に弱視スクリーニング検査を実施する自治体が誕生したことは喜ばしい限りだ。

 今後、他の自治体でも導入が進むよう働きかけを続けていく。

スポットビジョンスクリーナー
スポットビジョンスクリーナーの例。近視、遠視、乱視、不同視、斜視、瞳孔不同等がスクリーニングできる。6カ月齢以降の乳幼児から成人まで、数秒で検査が可能。

(『東京保険医新聞』2020年9月15日号掲載)

対都請願の論点②ー補聴器購入費用に対する助成を

 日本全体で高齢化が進んでいるが、東京都においても2019年の人口に占める65歳以上の人口の割合は23・3%と推計されている。そのなかで、難聴は特別な問題ではなくなってきている。

 聴力は認知機能と密接に関わっている。難聴は、認知症やうつ病の進行に関係しているとの研究もあり、補聴器の使用が効果的だ。日本補聴器工業会が2018年に実施した調査では、補聴器を使用した人の89%が「補聴器の使用により生活の質(QOL)が何かしら改善した」と回答した。

 難聴者における補聴器の使用率は、欧米では30~40%台であるのに対し、日本では14%にとどまっている。補聴器の購入費用は両耳で100万円かかる場合もあるなど高額であるにも関わらず、日本では、補聴器を購入する際の補助が少ないことが背景にある。

 都内には、身体障害者手帳の対象者でなくても、高齢者が補聴器を購入する際に助成を行っている自治体がある。2020年7月からは、足立区も助成を開始したが、助成を行っている自治体は、いまだ少数にとどまっている。

 今後、高齢化がいっそう進行し、労働力人口に占める高齢者の割合も増加すると予測されている。高齢者がQOLを維持しながら生き生きと生活できるよう、協会は東京都に対し、補聴器を購入する際の助成制度を独自に創設するよう要望している。
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(『東京保険医新聞』2020年9月25日号掲載)

対都請願の論点③ー診療所等への災害対策を

 台風やゲリラ豪雨等による被害が毎年のように発生している。2019年の台風19号では、都内でも多摩川流域などで浸水被害が発生した。災害時に停電が起きれば、診療継続が困難になり、在宅で療養中の患者等にとっては死活問題となる。

 東京都は都内の災害拠点病院に対し、自家発電設備の新設等への補助を実施している。しかし、災害時に都民のいのちを守るためには、それ以外の医療機関でも診療を継続できる体制を整えることが必要だ。

 協会は、災害拠点病院以外の病院や診療所等についても、自家発電装置や蓄電池等を購入する際の補助制度を創設するよう、東京都に要望している。

 また東京都は、都内在住の在宅難病患者に人工呼吸療法を実施する医療機関が、電力不足に備えてその患者に非常用発電機または無停電装置を無償で貸与する場合への補助事業を実施している(在宅人工呼吸器使用難病患者非常用電源設備整備事業)。

 協会は、①同事業を都内の医療機関に周知すること、②在宅酸素療法を実施する場合についても、停電に備えて蓄電池を購入する場合等への補助制度を創設することを東京都に求めている。

v全国には、北海道など、在宅難病患者が酸素濃縮器や人工呼吸器を使用する際の電気代の一部についての助成事業を実施している自治体がある。協会は、東京都でも同様の事業を実施するよう要望している。

(『東京保険医新聞』2020年10月5日号掲載)

対都請願の論点④-子ども医療費助成 都全域で18歳までの無料化を

 協会は東京都に対し、子ども医療費の助成対象を18歳まで拡充し、都内全域で子ども医療費無料化が実現するよう要望している。千代田区は、18歳までの子ども医療費を助成する高校生等医療費助成制度を独自に実施しているが、これは乳幼児医療費助成制度(マル乳)や義務教育就学児医療費助成制度(マル子)の4分の1以下の予算で実施されており、財政に与える影響も限定的だ。23区では他にも、品川区と北区が18歳までの入院医療費への助成を行っている。多摩地域では、日の出町、檜原村、奥多摩町が18歳までの通院・入院医療費を助成している。

 小・中学生を対象としたマル子については、23区では全額が助成されているが、多摩地域で同様の助成を行っている自治体は6市町村(武蔵野市、府中市、日野市、日の出町、檜原村、奥多摩町)のみだ。その他の自治体で残る窓口負担200円を早期に撤廃し、多摩格差を解消すべきだ。

 マル子の所得制限も、多摩地域の14自治体(立川市、昭島市、町田市、小平市、日野市、東村山市、狛江市、東大和市、清瀬市、東久留米市、武蔵村山市、稲城市、あきる野市、瑞穂町)で撤廃されずに残っている。

 しかし、檜原村が2020年度から18歳までの医療費への助成を開始するなど、自治体の努力により助成制度が拡充している。

 入院時食事療養費の患者負担分への助成についても、都内の自治体間で格差が残存している。このような医療格差改善のため、協会は今後も、子ども医療費の助成状況を調査し、改善を求めていく。

(『東京保険医新聞』2020年11月5日号掲載)

シリーズ対都請願の論点⑤ー保健所機能の恒常的な拡充を

 保健所の疲弊と機能不全が著しい。戦後、保健所は憲法25条に基づく保健所法の下、都道府県を主体として人口10万人あたり1カ所という設置基準のもとで運営されてきた。潮目が変わったのが臨調行政改革の流れで行われた1994年の保健所法の廃止と地域保健法の制定だ。全国で保健所の統廃合が急速に進み、1994年に全国で847カ所あった保健所は、1997年に706カ所に急減。2020年には469カ所まで減少した。東京都内でも1994年に71カ所あった保健所は、現在31カ所まで減少している。新興・再興感染症対策の他に、近年多発する大規模自然災害時の健康管理・対策のためにも、現状の二次医療圏毎に1カ所では不足なことは明らかだ。

 人員面では、都が直接管轄する保健所の医師定数が25人(2017年度)から20人(2020年度)に減少している。全国的に公衆衛生医師の欠員が続き、医師以外の保健所長、保健支所長も年々増加している。公衆衛生医師や保健師の確保は喫緊の課題だ。

 現場の保健師の超過勤務手当も1人あたり月に3時間分しかつかない保健所もあり、人員を増やし、給与も適正に支払う必要がある。都内の保健所がCOVID―19患者の情報集約にFAXを用いていると非難を浴びたが、ICT化には予算も人員も必要だ。

 保健所の業務は、通常時でも結核対策、感染症予防をはじめ、クリーニング店、旅館等の営業許可、精神保健福祉、難病対策など多くの分野に及んでおり、職員の専門分化も進んでいる。現状の保健所の体制ではパンデミックや災害に対応することは難しい。保健所の業務量に応じた適切な人員と予算を配分するとともに、保健所の数を増やし、保健所の機能を拡充することが必要だ。

(『東京保険医新聞』2020年11月25日号掲載)

シリーズ対都請願の論点⑥ー都立・公社病院の独法化に反対する

 東京都は2020年3月31日、都立病院・公社病院がCOVID-19患者の受け入れ先として機能している中、「新たな病院改革ビジョン」を公表した。全ての都立8病院と都保健医療公社の6病院を、2022年度内をめどに地方独立行政法人化する方針だ。

 COVID-19等の感染症対策として、医療機関では陰圧室等の建物や設備の整備、感染症の治療経験を有する医療従事者を配置する必要があるが、これらを民間医療機関が行うには限界がある。

 独法化すると病院の経営には「効率性」と「独立採算」が求められるようになる。既に独法化された病院では不採算部門の切り捨て、経費節減のための人員削減、給与削減、各種業務の外注化、非正規職員化が行われており、都民医療を下支えしてきた公的医療機関としての機能低下が懸念されている。また都立病院の労働環境は東京都内の医療機関の指標ともなっており、賃金、手当、諸規則を参考にしている民間医療機関は多数存在する。今後、医師をはじめとする民間医療機関の従事者への影響も生じかねない。

 協会では「新たな病院改革ビジョン」に対して独法化反対のパブリックコメントを提出した。今回のCOVID-19の拡大に伴い、感染症医療を都立病院・公社病院が率先して行うことは、都民に対する東京都の責務である。医療従事者、病床、公費の削減がこれ以上進行しないよう引き続き独法化撤回を要望していく。

(『東京保険医新聞』2020年12月5・15日合併号掲載)

シリーズ対都請願の論点⑦ーIRカジノ誘致問題

 COVID―19の拡大で、世界中のカジノ産業は壊滅的な打撃を受けている。閉鎖空間(密閉・密集・密接の「3密」環境)で賭博を行うIRカジノというビジネスモデルは破綻したと言える。

 東京都はカジノ解禁・誘致検討を進めており、候補地を臨海副都心・青海地区に選定し、2012年から6566万円にのぼる血税をカジノ調査に支出してきた。小池百合子都知事はカジノについて「メリット、デメリットの両面から総合的に検討する」と繰り返しており、「誘致検討」の姿勢を崩していない。
 ギャンブル参加者の依存症だけでなく、マネーロンダリングや貸し込みなど、さまざまな社会の腐敗を生むのがIRカジノの本質だ。秋元司・元IR担当副大臣の逮捕はそのことを実証している。都民のいのちと健康がコロナ禍で危うくなっている今、人の健康を蝕み、ギャンブル依存に陥った人の不幸を土台にして金を儲けるカジノ誘致を許して良いはずがない。

 2020年9月、都港湾局が2016~18年度にカジノ事業者6社と延べ17回面談していた事実が明らかになった。小池百合子都知事は面談の詳細な記録の開示に応じておらず、都民に対する説明責任を果たしていない。都民のいのちと健康を守ることが都政最大の課題となっている今、カジノ誘致に血税を浪費する調査費支出を見直し、きっぱりとIRカジノ誘致を断念すべきだ。

 協会は引き続きカジノの危険性と害悪を都民に広く周知していく。

(『東京保険医新聞』2020年12月25日号掲載)