対都請願の論点(2022年度東京都予算案)

公開日 2021年10月12日

対都請願の論点① 子ども医療費助成 三多摩格差の是正を

 協会は、都内の全自治体を対象に2021年度の「乳幼児医療費助成制度(マル乳)」「義務教育就学児医療費助成制度(マル子)」に関する調査を実施した。

瑞穂町、町田市、狛江市で所得制限撤廃実現

 マル乳についての変更はなかったが、瑞穂町、町田市、狛江市でマル子の所得制限撤廃の動きがあったことが判明した。瑞穂町は2020年10月から、町田市は2021年4月からマル子の所得制限を撤廃した。これにより、西多摩地区でマル子の所得制限が残るのはあきる野市のみとなった。また、南多摩地区でも稲城市と日野市を除く全市でマル子の所得制限撤廃が実現した。日野市は所得制限こそ残っているものの、マル子に係る通院1回あたり200円の窓口負担を廃止している南多摩地区で唯一の自治体である。
 北多摩地区では狛江市が2020年10月から、「小学校2年生修了前」までの児に限るものの所得制限を撤廃した。
 狛江市はマル子の所得制限を撤廃している世田谷区と調布市に囲まれており、同じ都民でありながら居住自治体による制度上の格差が大きいエリアであったが、改善した。

高校生世代への助成拡大進む

 狛江市は2021年10月から、住民税非課税世帯のみが対象であるが、市独自の高校生世代(15~18歳の年度末)を対象とした医療費助成制度を開始した。武蔵野市も2021年4月から高校生世代への入院医療費助成を開始し、2022年4月からは外来窓口負担まで助成を拡充する。狛江市、武蔵野市ともに償還払い方式で、自己負担の全額が助成される。
 外来窓口負担や所得制限の撤廃で先行する23区だが、高校生世代の医療費助成制度については、導入している自治体数、割合ともに多摩地区の後塵を拝することとなった(23区:3自治体、13%。多摩地区:5自治体、16%)。しかし、全国では30%以上の市町村で高校生以上の世代に対する自治体独自の医療費助成制度を実施しており、東京都全体が全国平均に届いていないのが現状だ。
 協会は都や都議会各会派にマル子の自己負担200円の撤廃、助成対象の18歳までの拡大を要望するなど、三多摩格差是正と子ども医療費助成制度の拡充に引き続き取り組んでいく。

(『東京保険医新聞』2021年9月15日号掲載)

シリーズ対都請願の論点② 後期高齢者の窓口負担軽減を

一定の所得がある後期高齢者の医療費窓口負担を2倍化する医療制度改革関連法案「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」が2021年6月に成立した。
 東京都では36万9千人、75歳以上の23・1%の医療費窓口負担が1割から2割負担となる予定だ。全国では、年収200万~383万円未満(単身者の場合)の後期高齢者370万人に2割負担が導入される(2022年秋頃実施予定)。
 外来・入院を合わせると、1人あたり年間3万4千円の負担増になる。負担増後は激変緩和措置が実施されるが、その後でも1人あたり年間2万6千円の負担増となる(表参照/激変緩和措置は施行後3年で廃止)。
 後期高齢者は医療費窓口負担に加え、1人あたり年間10万1053円(東京都平均・月額8421円)の後期高齢者医療制度保険料をすでに負担しており、さらなる窓口負担増は高齢者の深刻な受診抑制を引き起こす恐れが強い。2割負担導入の影響は甚大だ。
 協会は、医療費窓口負担が1割から2割負担となる後期高齢者について、都として負担増分を補助する制度を独自に創設し、1割負担のまま医療機関を受診できるよう要望した。また、2割負担導入による後期高齢者の受診動向への影響について、対象者にアンケートを実施するなど、都として至急調査を実施するよう求めた。国に対しては、2割負担の実施撤回を強く求めていく。

(『東京保険医新聞』2021年9月25日号掲載)

対都請願の論点③ 都立・公社病院 今なぜ独法化するのか

 東京都は9月28日、都立8病院と都保健医療公社6病院を地方独立行政法人化し、「地方独立行政法人東京都立病院機構」を設立するための定款議案を、都議会第3回定例会に提出した。

コロナ禍中でなぜ独法化を急ぐのか

 第5波による感染者の急増によって、自宅療養者が入院できず、病院外で死亡する事例が都内でも100人を超え、医療崩壊に至った。現在、都立・公社病院は全病床数の約28%、約2000床をコロナ病床に転換している。これは都内コロナ病床約6700床の約3割にも達する。東京都直営とそれに準じる公社病院の運営形態の特徴を最大限に発揮し、コロナ対応にあたっている。
 都は2022年度中の独法化を目指すとしているが、パンデミックとの闘いの最中に、独立採算が求められる独法化へと運営形態を変更することは大きなリスクを伴う。独法化によって、都立・公社病院の医療従事者は都職員からの身分・給与・処遇の変更を迫られる。感染リスクを顧みず、長期にわたってコロナ対応にあたっている職員に、転職等も含めたライフプランの検討を押しつけることになる。

独法化は地域医療・行政的医療の後退につながる

 すでに独法化された全国の公的病院では、昇給がなくなる、外部委託と非常勤職員が増えるなどの理由で、長期的な人材育成と専門技術の継承が困難になっている。その結果、コロナ下においてもコロナ病床を確保できないなどの事例が発生している。
 独法化は、経済性と採算を重視した効率的な運営を迫り、公務員を削減し、行政的医療の役割を果たすための税金投入を抑えるために、全国で導入されてきた手法だ。大阪では府立病院と市民病院の多くがすでに独法化されるなどして、コロナ禍での医療崩壊の最大の原因となった。
 東京都においては都立・公社病院をコロナ病床に転換させることで、機動性を発揮し、医療崩壊を防ぐ大きな役割を果たしてきた。都は「独法化は、医療ニーズの変化に柔軟で迅速な対応が可能」と説明しているが、これまでに独法化された病院の対応については、詳細な分析が必要だ。パンデミックの中で、都立・公社病院が果たしている役割についても、コロナ収束後に改めて評価・検討を行うべきだ。
 独法化を強行することは、東京都の地域医療・行政的医療の後退につながる。協会は都議会での定款議案の審議に抗議するとともに、他団体とも協力して、都議会各会派・都議会議員に対する働きかけを強めていく。また、独法化のリスクと危険性を広く都民に周知し、審議の中止を求めていく。


                                             (『東京保険医新聞』2021年10月5日号掲載)

対都請願の論点④ COVID-19 検査体制の充実を
 新型コロナワクチンの接種を受けた国民は増加しているが、COVID―19の収束は見通せず、感染者の増加と行動制限・自粛を繰り返している。
 都内の医療機関や高齢者施設、学校、保育所等でもクラスターが発生し続けており、ワクチン接種のみでCOVID―19を抑え込むことはできないことが明らかとなっている。
 検査の拡充および陽性者の隔離は、感染症対策の基本だ。9月9日に実施した東京都福祉保健局との懇談において、協会は「今後、都内においてCOVID―19の検査をどのように拡充する方針なのか」と質した。それに対し、都は「高齢者施設や障がい者施設等の従事者に対する定期的・集中的な検査や、繁華街や大学等でのモニタリング検査を実施してきた。今後も、感染動向をふまえて必要な検査を行う」と回答した。
 医師・医療従事者は、日常診療の中でも、COVID―19感染者に接している可能性がある。協会は、安心して診療を継続し、医療崩壊を未然に防ぐことができるよう、上記のような都の検査体制を拡充するとともに、一般診療所・病院の医師・医療従事者等のエッセンシャルワーカーにも定期的に公費でCOVID―19のスクリーニング検査を行えるよう、引き続き要望していく。
                                        (『東京保険医新聞』2021年10月25日号掲載)
対都請願の論点⑤ 保健所機能の拡充を

 コロナ禍で保健所の業務逼迫が続いている。多くの保健所職員は過労死ラインを超える長時間労働を強いられている。それでも自宅療養者の健康観察が遅れたり、積極的疫学調査の縮小によりクラスターを見逃す等の事態が発生してきた。
 戦後、保健所は憲法第25条に基づく保健所法のもと、都道府県を主体として、人口10万人あたり1カ所という設置基準で運営されてきた。しかし、臨調行政改革以降、社会保障削減の流れの中で、保健所法に代わり1994年に地域保健法が改定され、全国で急速に保健所の統廃合が進んだ。1994年に全国で847カ所あった保健所は、1997年までに706カ所に急減し、2021年には470カ所となっている。東京都内でも、1994年に71カ所あった保健所が、現在31カ所まで減少している。また、厚生労働省の地域保健・健康増進事業報告(2019年度)によれば、人口10万人あたりの常勤保健師数は、全国平均の21・2人に対し、東京都は13・1人(46位)だ(図参照)。公衆衛生医師や保健師の確保が喫緊の課題となっている。
 コロナ禍で明らかになったように、現在の保健所体制では、新興・再興感染症や大規模自然災害等への対応が困難だ。
 協会が9月9日に実施した東京都福祉保健局との懇談では、「COVID―19対策により業務負担が増大している保健所の支援を行うため、保健所支援拠点を設置して有期雇用の保健師や看護師等を配置したり、都職員を保健所に派遣する等の応援体制をとっている」との回答があった。
 しかし、そもそも保健所の業務は、通常時でも結核対策、感染症予防のみならず、母子保健、精神保健福祉、難病対策、クリーニング店、旅館等の営業許可、など多くの分野にわたり、しかも職員の専門分化も進んでいる。付け焼き刃の対策では不十分だ。
 保健所の業務量に応じた人員と専門職員の配置、予算の確保を行うとともに、保健所の数を増やし、保健所の機能を回復して高めることが必要だ。

 

(『東京保険医新聞』2021年11月5日号掲載)