対都請願の論点(2023年度東京都予算案)

公開日 2022年10月07日

対都請願の論点① 保健の養成・増員を-保健所体制の拡充求める

 コロナ禍において公衆衛生を担う保健所体制の脆弱さが浮き彫りになった。しかし、1991年に全国で852カ所あった保健所は、2022年には468カ所に減少し、この30年間でほぼ半減した。保健所の職員総数も1989年からの約30年間で6500人以上減少した。コロナ禍以前から保健所は削減され、弱体化していた。
 保健所の業務はCOVID―19などの感染症対策をはじめ、精神保健福祉、難病対策、クリーニング店・旅館等の営業許可など多岐にわたる。東京都が管轄している多摩地域における各保健所の保健師定数(2021年4月1日現在)と管轄地域人口(2021年1月1日現在)を比較した(表参照)。保健師1人あたり1万6500人~2万6700人も担当している状況だ。多摩府中保健所では100万人以上を一つの保健所でカバーしている。また、西多摩保健所の管轄区域は東京都の約3割の面積にも及んでいる。限られた人員で、住民の生活と健康を支える役割を発揮することは、平時であっても困難な体制であった。
 現在は、COVID―19対応に人員が割かれることにより、平時に行われていた保健所業務が実施できないなど、大きな影響が及んでいる。
 協会は、保健所が住民のいのちと健康を守る役割を十分に果たすためには、自治体ごとに保健所・保健相談所(センター)が設置され、地域の課題や実情を保健師が直接把握できる体制が必要だと考え、保健所の体制・機能を抜本的かつ恒常的に強化することを東京都に強く要請している。奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの研究グループが「人口あたりの保健師数が多い都道府県は、COVID―19にかかる人の割合が低い」とする研究結果を2022年5月10日に発表するなど、平時からの保健師活動がCOVID―19の罹患率に影響を与えている可能性が指摘されている。
 コロナ後を見据え、東京都は保健所体制の拡充と保健師の養成・増員へと早急に舵を切るべきである。

(『東京保険医新聞』2022年9月15日号掲載)

対都請願の論点② 上がり続ける国保料負担~東京都の役割発揮を求める~

 国民健康保険加入者の保険料負担は、年々増加し続けている。2022年度の東京都23区の国保料(医療分+後期高齢者支援分)は、5万5300円(均等割)+所得の7・16%(所得割)となっており、40~64歳はさらに介護分の均等割・所得割が加わる。
 東京都の国民健康保険事業状況によれば、2020年度の1人あたりの国保料は11万3084円で、この10年で1・28倍になっており、国保加入者の約半数が無職者であることを考えれば、明らかに過重な負担である。しかも加入者は、3割(または2割)の窓口負担を支払わなければならない。
 上がり続ける国保料に対し、各区市町村は法定外一般会計繰入(以下、法定外繰入)を実施することで上昇を抑えている。このような状況で、東京都は各自治体による法定外繰入を「削減すべき赤字」と位置づけ、削減を求めている。仮に区市町村が法定外繰入を全く行わなければ、2022年度の1人あたり保険料は16万7042円となり、2020年度と比較して48%増となる計算だ。
 過重な保険料や自己負担による受診抑制で加入者の健康状態が悪化すれば、かえって医療費は膨張し、公費負担増にもつながる。都民のいのちと健康を保障することは東京都の役割であり、医療費増を各区市町村や加入者の負担によって賄おうとすることは職責の放棄と言わざるを得ない。
 広域化に伴い国民健康保険の運営者となった東京都はその役割を発揮し、予算を投じて誰もが安心して払える保険料を実現しなければならない。少なくともその役割を各自治体へ押し付けた挙句、法定外繰入金の削減を求めることはやめるべきである。


                                          (『東京保険医新聞』2022年9月25日号掲載)

対都請願の論点③ 子ども医療費助成の拡充を~多摩地域の格差解消を求める~

東京都の子ども医療費助成制度(以下、マル子)は所得制限や通院時の一部自己負担(200円)を設けた上で実施され、都と各区市町村が費用をそれぞれ半額ずつ負担している。所得制限の対象となる世帯の子ども医療費や、通院時の一部自己負担分に対し、独自に予算を投入することで子ども医療費の完全無料化を実現している自治体もある。マル子は2007年に開始されて以来、各区市町村の努力によって段階的に拡充が進んできた。
 しかし、各区市町村の財政状況によって、助成の水準に格差が生まれているのが現状だ。都内自治体ごとの所得制限、通院時自己負担の状況(2022年10月時点)を表にまとめた。23区では全域で所得制限、通院時自己負担が撤廃されているが、多摩地域ではほとんどの市町村で自己負担200円が存在する。
 さらに、2023年4月から東京都全域で開始が予定されている高校生等医療費助成制度においても、自治体間格差は解消されない見込みだ。23区においては、各区が独自に財源を出すことで、所得制限なし・通院時自己負担なしとなることが発表されているが、多摩地域においては市町村ごとに調整中である。朝日新聞の調べによれば、15市町村で所得制限が撤廃され、7市町村で通院時の一部自己負担が撤廃される予定である。
 マル子は年々拡充が進み、来年度からは高校生にまで助成の対象が拡大するが、依然として自治体間の格差が存在する。子どもの発育・成長にとって医療は必要不可欠であり、自治体の財政状況によって子どもが受けられる医療に差がつくべきではない。協会は東京都に対し、18歳までの医療費を完全無料化し、自治体間格差を是正することを引き続き強く求めていく。

 

(『東京保険医新聞』2022年10月15日号掲載)

対都請願の論点④ 都立・公社病院独法化 行政的医療の後退を許さない

 2022年7月、都立8病院、公社6病院が独立行政法人化された。
 地域医療は、公立・公的病院、民間医療機関で機能分化をはかり、それぞれの役割を果たすことで成り立っている。都立・公社病院が民間医療機関では行えない行政的医療を担うことで、民間医療機関は安心して診療を行うことが可能となる。新型コロナウイルス感染症第3波の際には、都立・公社のうち3病院を専門病院化したことで地域の救急医療の崩壊自体についてはギリギリのところで免れることができた。
 東京都には不採算医療等、民間医療機関では担えない行政的医療を確保する義務がある。東京都との懇談では独法化後も行政的医療を担保するために、「独立行政法人が達成すべき中期目標の基本方針として①将来にわたり行政的医療等を安定的継続的に提供していくこと、②地域医療機関との役割分担のもと、地域医療の充実に貢献すること、③未知の感染症をはじめ先々の新たな医療課題に対しても率先して迅速に対応していくことを定めた。行政的医療にかかる経費については現在と同様に運営費負担金として都が負担する仕組みが法定されており、2022年7月1日~2027年3月31日の運営費負担金予算額は約2338億円である」と都側から説明があった。
 しかし、独法化により従前より独立採算制が強く求められるのは必然だ。中期目標や運営費負担金予備額が変更される可能性もある。今後も新型コロナ感染拡大等により通常医療が逼迫する事態が続くことも懸念される。長期的に安定した地域医療提供体制が継続できるか不安はぬぐえない。
 協会は引き続き独法化撤回を要望するとともに、医療水準の低下、行政的医療の縮小、病院の統廃合、差額ベッド料の増額などが起きないよう監視を続けていく。

(『東京保険医新聞』2022年10月25日号掲載)

対都請願の論点⑤ 生活保護受給者へのマイナンバーカード強要は人権侵害 

 2021年6月4日に成立した「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」では、①電子資格確認(以下「オン資」)その他厚生労働省令で定める方法により、医療扶助を受給する被保護者であることの確認を受ける、②生活保護指定医療機関は、オン資の導入に協力することが規定され、2023年度中の運用開始に向けた準備が進められている。都内においても、生活保護受給者に対し、2022年度中のカード取得を求める通知を郵送している自治体がある。
 しかし、そもそもマイナンバーカード(以下「カード」)の申請は、誰に対しても任意である。協会が9月8日に実施した東京都福祉保健局との懇談において、都も「カードの申請について、個人が判断できるのは生活保護受給者も同様だ」と回答した。
 国民の義務でもないカード取得をしないことを理由に、医療が受けられない事態を招いてはならない。医療情報を含む膨大な個人情報がマイナンバーと紐付けられて、本人の同意なく利活用されたり、サイバー攻撃にさらされる危険などを鑑み、国民のカードの取得は伸び悩んでいる。「経済的関係」を理由に、生活保護受給者にカード取得を強要することは、日本国憲法第14条(法の下の平等)および第25条(生存権)に反する著しい人権侵害だ。また、オン資を実際に運用している医科診療所は21%に過ぎない(10月2日時点)。運用中の医療機関においても保険者によるデータ登録の不備などで資格確認ができない事態が生じている。23年度中に運用が開始される予定である生活保護受給者に対する医療扶助の資格確認についても、同様にトラブルが起こり得る。
 21年6月3日の参議院厚生労働委員会における附帯決議には「何らかの事情により制度施行後においてもカードを保有するに至っていない被保護者に対しては、引き続き医療券等の発行を行うなど、必要な医療を受けられる体制を確保すること」と明記されている。
 協会は、①医療機関等に対するオン資導入の義務化を撤回し、②保険証をこれまで通り交付するとともに、生活保護受給者にカード取得を強要しないよう、引き続き求めていく。

(『東京保険医新聞』2022年10月25日号掲載)