対都請願の論点(2024年度東京都予算案)

公開日 2023年09月26日

[対都請願の論点①]PFASによる健康被害の対策を

 有機フッ素化合物(PFAS)は耐熱性、耐薬性に優れており、コーティング剤、泡消火剤、半導体などに広く利用されてきた。しかし、分解されずに人体に長くとどまることから、発癌、脂質異常症、甲状腺機能障害、免疫不全などの健康被害が指摘されており、世界的には使用が規制されているが、日本では対策が遅れている。
 米国環境保護庁は、人体への影響に鑑み、2023年3月に飲料水の基準としてPFOS、PFOAそれぞれ4/ℓという新たな規制値案を公表した。
 一方、日本におけるPFOS、PFOAの暫定目標値は50/ℓだ。さらに、東京都環境局が6月30日に公表した2022年度の地下水調査(62地点)では、新たに世田谷区と武蔵村山市で50/ℓを超えるPFASが検出された。
 遡ると、東京都水道局は2005年、東京都福祉保健局も2007年に水道水の取水源である井戸を対象にPFAS濃度の調査を開始した。いずれも高濃度のPFASが検出されていたが、都福祉保健局は2014年に調査を中断した。
 その後、調査を再開し、2018年度には「横田基地モニタリング井戸」で都内最高値(1340/ℓ)のPFASが検出された。都水道局は2019年以降、多摩地域で水道水源に利用している278カ所の井戸のうち40カ所を順次、取水停止にした。この間、知らない内に水道水から高濃度のPFASを摂取したことによる住民への健康被害が強く懸念される。
 多摩地域の市民団体は、都内27自治体の住民650人を対象に血液検査を実施し、半数超の335人から米国の指標値(※)を超えるPFASが検出されたと報告した。
 また、高濃度のPFASが検出された住民は、米軍横田基地の東側地域に集中していることが明らかになり、分析を担当した原田浩二氏(京都大学准教授)は、「地下水の上流に位置している横田基地の影響としか考えられない」と指摘している。
 防衛省は、2010年~2020年の間に、米軍横田基地で泡消火剤の漏出事故が合計6件あったことを2023年6月に公表した。そのうち3件は、2019年1月に報告書を入手していたが、公表までに約4年半を要しており、国民のいのち・健康を軽んじていると言わざるを得ない。
 協会は、東京都が責任を持って、都内全域におけるPFASの汚染状況を調査し、原因を追究して対策を講じるとともに、血液検査や健診等を希望する住民に対し、それらを公害医療として公費で実施するよう強く求めていく。
※アメリカの学術機関である全米アカデミーズの指標では、7種類のPFASの合計値が血中20/㎖を超えると健康被害の恐れが高まるとされる。

(『東京保険医新聞』2023年9月15日号掲載)

[対都請願の論点②]健康保険証の存続を

 2023年6月にマイナンバー法等が改定され、2024年秋に健康保険証を廃止することが決まった。
 しかし、マイナ保険証に誤って他人の情報が登録されるなど、マイナンバーカードに関するトラブルが相次いでいる。医療現場では、マイナ保険証のみでは資格確認を確実に行うことができないため、保険証の持参を患者に呼びかけるなどの対応を余儀なくされている。現在発生しているトラブルや諸問題は、現行の健康保険証を存続させれば解決することができる。
 協会は東京都に対して、①健康保険証の発行を継続すること、または②資格確認書を被保険者全員に発行し、有効期限を1年から5年に延長すること―を国に強く要請するよう要望した。
 東京都は区市町村と共に国民健康保険制度を運営する主体であり、健康保険証の廃止によって、「無資格」「無保険」者が発生しないよう責任を果たす必要がある。
 健康保険証の廃止に伴い、これまで国民健康保険料の滞納者等に対し発行されていた短期被保険者証および資格証明書が発行されなくなる問題についても東京都との懇談で取り上げた。区市町村の担当者が保険料滞納者の状況を把握しにくくなり、被保険者からの保険料納付に関する相談の機会が確保されなくなることがないよう注視していく。

地方議会への請願・陳情の取り組み

 協会は8月末から9月中旬にかけ、都内各区市町村の地方議会に「健康保険証を存続するよう国に意見書の提出を求める」請願・陳情を行った。国民世論の多数が保険証の存続を求める中で、各地方議会・各会派の請願・陳情に対する賛否が注目される。
 地方議員からは「国からの点検作業の押し付けで自治体職員は悲鳴をあげている。保険証は残すべきだ。請願の紹介議員を引き受けます」「他会派の議員にも私から賛同できないか呼びかけてみます」などの声が寄せられている。
 9月20日現在、三鷹、武蔵野、調布、東村山、国立、小金井の6市の委員会で採択されており、本会議での討議が待たれる(国立市は9月15日の本会議で不採択)。
 請願・陳情の取り組み結果は後日、本紙で報告する予定だ。

(『東京保険医新聞』2023年9月25日号掲載)

[対都請願の論点③]弱視スクリーニング検査機器 都内全域で導入を

 子どもの視力は生後から3歳までに急速に発達し、6歳~8歳頃までにほぼ完成する。この時期に視力の成長を妨げる要因があると視力の発達が停止し、生涯眼鏡やコンタクトレンズを使用しても十分な視力が得られない。これを「弱視」と言い、約50人に1人程度と言われている。
 弱視の原因は強い遠視や乱視などの屈折異常であることが多く、早期発見には3歳児健診時におけるスポットビジョンスクリーナー等の屈折検査機器による検査が有用だ。国の2022・2023年度予算に、区市町村が屈折検査機器を購入する際の補助が盛り込まれたことを受け、各地で導入が進んでいる。23区においては、2022年8月時点で導入済みが10区だったが、2023年6月には20区に増加した。2023年6月現在での都内の導入状況は下表の通りである。

屈折検査機器の例(スポットビジョンスクリーナ―)

 いまだ機器を導入していない9自治体の子どもはスクリーニング検査を受けられず、弱視の進行を防ぐ機会を逃す恐れがある。都内のすべての子どもが精度の高い3歳児健診(視力検査)を受けられるよう、協会は各自治体への早急な働きかけの実施を都に要望した。

 

(『東京保険医新聞』2023年10月5日号掲載)

[対都請願の論点④]子ども医療費 都内全域無料化を

 協会は、都内の全自治体を対象に「乳幼児医療費助成制度(マル乳)」「義務教育就学児医療費助成制度(マル子)」および、2023年4月に始まった「高校生等医療費助成制度(マル青)」に係る調査を実施した。
 マル乳については、都内全域で通院・入院とも入院時食事療養費を除いて無料化が実現している。マル子・マル青は、23区では同様に無料化が実現している。多摩地域でも、通院時の窓口負担(1回200円)および所得制限を撤廃する自治体が増加しているが、依然として残っている自治体も多く(下表)、自治体の財政力によって格差が生じている。
 子ども医療費助成制度をめぐっては、マル青の開始など、協会の要望が一部実現している。子どもの発育・成長に医療は不可欠であり、自治体の財政状況によって子どもが受けられる医療に格差が生じるべきではない。協会は引き続き、18歳に到達した年度末までの医療費を都内全域で完全無料化するように求めていく。

(『東京保険医新聞』2023年10月15日号掲載)

[対都請願の論点⑤]都立・公社病院独法化の撤回を

 東京都には感染症医療、被災者医療のみならず不採算医療等、民間医療機関では担えない「行政的医療」を確保する義務がある。さらに、高度医療・専門医療等の役割も担っており、地域医療の拠点として都民の命と健康に責任を持つ立場にある。
 それらの役割をこれまで果たしてきた都立8病院、公社6病院が2022年7月に独立行政法人化(以下、独法化)された。
 都立・公社病院がその役割を継続するためには、独法化前と同等以上の予算(運営費負担金)、医師や看護師等の医療従事者の確保等を含めた人材育成の仕組みが欠かせない。
 9月7日に行われた都保健医療局・福祉局との懇談で、都の担当者は、都が独法化後も行政的医療を担保するために策定した、独法化後の都立・公社病院が達成すべき中期目標の基本方針(①将来にわたり行政的医療等を安定的継続的に提供していく、②地域医療機関との役割分担のもと、地域医療の充実に貢献する、③未知の感染症をはじめ先々の新たな医療課題に対しても率先して迅速に対応していく)に変更はないと回答した。
 行政的医療にかかる経費は都が負担しており、2022年7月1日~2027年3月31日間の運営費負担金予算額は約2338億円(単年度平均約492億円)であり、現時点ではいずれも変更はない。
 一方、医師・看護師の採用については、「選考の権限を各病院長に付与した」と説明した。
 協会とともに独法化阻止運動を行った「都立病院の充実を求める連絡会」に対しては、「東京都の立場は行政的医療を行えるよう財源を措置する役割であり、個別の話は地方独立行政法人東京都立病院機構で対応してほしいと考えている」と述べたとのことである。同会は独法化後に荏原病院が看護師不足により3病棟を閉鎖したこと、大塚病院では医師が確保できないため麻酔科ペイン外来を2024年3月で休止することを決定したことを指摘している。
 独法化された14病院が中期目標の基本方針に沿わない病院に変容していく恐れがあり、それは行政的医療の縮小を意味する。医療提供体制を確保するために、医師・看護師の採用を各病院に任せるのではなく、東京都が責任を持って行うべきだ。
 協会は引き続き独法化撤回を要望するとともに、医療水準の低下、行政的医療の縮小、病院の統廃合、差額ベッド料の増額などが行われないよう監視していく。

(『東京保険医新聞』2023年10月25日号掲載)

[対都請願の論点⑥]看護師確保 実効性ある施策を

 医療現場では恒常的な看護師不足が続いている。加えて、紹介予定派遣と称して看護師の派遣業務を取り行う一部の有料職業紹介事業所が、医療機関から法外な紹介手数料を徴収していることが問題となっている。
 2018年1月に職業安定法が改定され、手数料や6カ月以内の離職者数などの情報公開が有料職業紹介所に求められることとされた。
 2023年4月14日に開催された政府の規制改革推進会議の「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」においては、悪質な人材紹介業者への規制を強化し、離職率や紹介手数料を都道府県・職種ごとに公表すること等が論点として挙げられた。
 2023年7月26日付で「公的職業紹介の機能強化と有料職業紹介事業の適正化について」の通知が発出され、厚生労働省がホームページで、「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」として人材紹介会社の認証を開始する等、問題解決に向けた取り組みが始まった。
 東京都は協会との懇談で、看護職員の再就業・定着に向けた取り組みとして、「就業相談会・実技体験会・元看護職員向けのイベントの開催とともに、再就業者に対する奨励金の支給を実施している」「7月26日付の通知を受けて、『医療・介護・保育』求人者向け特別相談窓口が東京労働局に設置された」と回答した。
 2021年度の看護職員の離職率が全国で最も高いのは東京都である。正規職員で14・6%、新卒採用者で12・3%、既卒採用者で20・7%と、2020年度からさらに悪化している(日本看護協会調査)。
 会員医療機関からは2021年4月に禁止された「お祝い金」や「あっせん後の早期転職の勧奨」が未だに行われている、認証された紹介事業者を利用したもののすぐに離職してしまったとの声が寄せられている。
 新型コロナ対応のみならず、日常診療における医療提供体制の確保はもちろん、医療安全のためにも、看護職員の確保体制の構築は急務である。国および東京都には実効性のある施策を強く求めたい。

(『東京保険医新聞』2023年11月5日号掲載)