対都請願の論点(2025年度東京都予算案)

公開日 2024年10月01日

[対都請願の論点①]医療措置協定

協定内容の明確化
 2024年6月診療報酬改定では、医療措置協定において第二種協定指定医療機関に指定されることが「外来感染対策向上加算」と「発熱患者等対応加算」の要件とされた。
 医療措置協定は、感染症発生・まん延時に医療提供体制を確保するため、都道府県と医療機関とで締結するものだ。ここで想定している感染症には、COVID-19のような新興感染症も含まれる。対応が求められる感染症の性状が分からない中で協定を結ばなければならない医療機関側はリスク負担が大きい。
 都は、①感染症の性質に応じて随時協議により協定の内容変更や解約ができる、②医療機関の事情により協定履行が困難な場合は、一方的に勧告・指示・公表等の措置を行わない、と説明しているが、実際の運用は不明だ。協会は、①および②を確実に守って運用するとともに、協定を締結する(または、すでに締結した)医療機関に上記の内容を丁寧に説明するよう都に要請を行った。

負担に見合う補助を
 都は、医療措置協定を締結していることにより受けられる補助金事業を順次公表・拡充するとしているが、現時点では「令和6年度東京都協定締結医療機関施設・設備整備事業」(2024年5月2日受付終了)のみである。また、医療措置協定を締結した医療機関に対し、都は2カ月分の個人防護具(サージカルマスク、N95マスク、アイソレーションガウン、フェイスシールド、非滅菌手袋等)の備蓄を推奨しているが、あくまで任意事項としており、補助金等の設定はない。
 COVID-19のような感染症が発生した際に発熱外来や自宅療養者への医療の提供を実施しようとする場合、個人防護具の備蓄は事実上必須であり、医療機関の持ち出しとなる。
 協定を締結することで受けられる補助金については、感染症対応の負担に見合うものにするとともに、外来感染対策向上加算・発熱患者等対応加算の施設基準における経過措置終了(2024年12月31日)までに医療機関が締結の可否を判断できるよう、具体的な内容を早急に示すよう要望した。
 

(『東京保険医新聞』2024年9月15日号掲載)

[対都請願の論点②]高齢者が補聴器を購入する際の助成制度を

 難聴有病率は65歳以上で急増するといわれている。65歳~69歳男性の43・7%が難聴を発症していると推計され、この割合は加齢とともに急速に高まる。難聴は認知機能の低下、鬱病の発症率増加、死亡率増加に関与することから、高齢者に対して「きこえの支援」が必要だ。
 しかし、日本の補聴器所有率は15%であり、欧州各国や中韓等の調査実施国16カ国中15位と低い水準にとどまっている。EU加盟国のうち79%で補聴器の購入に全部または一部の健康保険が適用されるなど、欧州ではほとんどの国が手厚い公費補助を実施しているが、日本で公的補助の対象となる要件は厳しく限られた難聴者しか対象とならない。日本の難聴者率は10%で1千万人以上の難聴者がいると推測されており早急な対策が必要だ。
 東京都内では、補聴器の購入に際して新たに補助を開始する自治体もあり、23区は実施予定も含めて全ての自治体で助成制度を設けたが、多摩・島しょ部では11自治体のみである。また、補聴器1台の価格はほとんどが10万円から30万円と高額であるにもかかわらず、自治体の助成内容は購入価格に比して不十分なものが多い。
 東京都は2024年度から「高齢者聞こえのコミュニケーション支援事業」を開始した。区市町村が高齢者を対象とした補聴器購入費助成制度を実施する場合に、その費用の2分の1を都が補助するものだ。しかし、前述の通り自治体間格差を生み出している上、補聴器の価格に対して十分とは言えない補助内容である。東京都が高齢者の補聴器購入に対する十分な助成を行うよう協会は引き続き要請していく。

(『東京保険医新聞』2024年9月25日号掲載)

[対都請願の論点③]子ども医療費助成 都内全域無料化を

 協会は、都内の全自治体を対象に「乳幼児医療費助成制度(マル乳)」「義務教育就学児医療費助成制度(マル子)」および、「高校生等医療費助成制度(マル青)」に係る調査を実施した。
 マル乳については、都内全域で通院・入院ともに無料化が実現している(入院時食事療養費を除く)。マル子・マル青については、23区では無料化が実現している。多摩地域では、通院時の窓口負担(1回200円)および所得制限を撤廃する自治体が増加しているが、依然として残っている自治体も多い(下表)。同じ都内でも自治体の財政力によって地域間の格差が生じているのが現状だ。
 子ども医療費助成制度をめぐっては、マル青の開始など、協会の要望が一部実現している。子どもの発育・成長に医療は不可欠であり、自治体の財政状況によって子どもが受けられる医療に格差が生じるべきではない。

都知事が所得制限撤廃の方針示す 25年10月から

 9月18日に開会した都議会第3回定例会において、小池百合子都知事は所信表明の中で「子育てしやすい環境を一層充実させる」と述べ、2025年10月から高校生以下の医療費助成の所得制限を撤廃する方針を明らかにした。小池都知事の方針通りとなれば、協会が長年要望してきた子ども医療費助成の所得制限撤廃が実現することになる。
 協会は、所得制限撤廃が着実に実現するように注視するとともに、通院時自己負担の撤廃も引き続き求めていく。

 (『東京保険医新聞』2024年10月5日号掲載)

[対都請願の論点④]誰でも保険診療を受けられるように健康保険証の存続を

 政府は、2024年12月2日から健康保険証の新規発行を停止するとしている。しかし、様々なトラブルによりマイナ保険証だけでは確実な資格確認ができないのが現実だ。健康保険証が廃止されると、健康保険料を支払っているのに保険診療を受けられない「無資格」「無保険」者が生まれることが懸念される。マイナ保険証の利用率は12・43%(2024年8月)と低迷していることからも、国民は健康保険証の廃止を支持していない。
 マイナンバーカードの取得やマイナ保険証の登録は、あくまでも任意だ。東京都は少なくとも、区市町村とともに国民健康保険制度の運営主体として、健康保険証の廃止によって「無資格」「無保険」者が生じないように責任を果たす必要がある。
 協会が2023年度に23区と多摩地域の自治体議会に提出した「健康保険証を存続させるよう国に意見書の提出を求める」請願・陳情は、調布市と小金井市の本会議で採択され、国に意見書が提出された。渋谷区議会では協会が提出した請願が委員会で採択されたことを受け、その後、東京土建渋谷支部が提出した陳情により、本会議で「現行の健康保険証とマイナ保険証の両立を求める意見書」が採択された(2024年3月21日)。三鷹市議会では、協会北多摩支部と東京土建三鷹武蔵野支部が共同で提出した陳情が9月30日の本会議で採択され、「当面の間、現行の健康保険証とマイナ保険証の両立を求める意見書」が国に提出された(左上参照)。健康保険証の存続等を求める意見書は、全国の200を超える自治体で採択されている。
 第28代・自民党総裁に選出され、第102代・内閣総理大臣となった石破茂氏は、総裁選の中で「健康保険証の廃止によって不利益を被る人がいないように努めるのが政府の仕事だ」と、健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化する時期を見直す可能性に言及していた。しかし、平将明デジタル大臣・福岡資麿厚生労働大臣は予定通り12月に健康保険証の発行を停止する方針を示した。
 協会は東京都に対し、「健康保険証の発行を継続すること」を国に強く求めた。臨時国会に向けて、引き続き「現行の健康保険証を残してください」請願署名に取り組むとともに全ての被保険者に資格確認書を送付するよう求めていく。ぜひ、ご協力いただきたい。

(『東京保険医新聞』2024年10月15日号掲載)

[対都請願の論点⑤]重度訪問介護

 重度訪問介護は、重度の身体障害・知的障害・精神障害等により常時介護を要する障害者に対して、居宅や外出時等における①入浴・排泄・食事等の介護、②調理・洗濯・掃除等の家事、③その他生活全般にわたる援助等、を提供する障害福祉サービスの一種だ。
 重度訪問介護を月に何時間まで利用できるかは各区市町村が利用者ごとに決定しており、その基準は地域によってばらつきがある。多くの自治体は利用者が家族と同居している場合、家族が介護することを前提として支給時間を差し引いている。
 千葉県松戸市の男性が市に対し24時間の重度訪問介護を求めた訴訟で、千葉地裁は2023年10月31日に、別の医療サービスでたんの吸引などを行っている時間を除く1日22時間余りの利用を認めるよう市に命じる判決を言い渡した。男性は妻と息子(5歳)との3人暮らしで、家族が介護するべきとして重度訪問介護の利用時間が一部差し引かれていたが、今回の判決では「妻の心身の状況などを十分に考慮すべき」として実質24時間の利用が認められた。
 このような判例に鑑み、協会は都に対し、重度訪問介護の支給時間について、利用者の病状や家族の生活環境を勘案した上で十分なサービスを受けられる水準に設定するよう、自治体に対して働きかけることを要望した。
 9月12日の都と協会との懇談で、都からは、「重度障害者が安心して生活するためには、利用者・家族の希望や、家族の生活環境を勘案した上で適切な支給決定を行うことが重要だ。都ではこうした考え方に基づいて各区市町村からの問い合わせに対応している」との回答を得た。

(『東京保険医新聞』2024年11月5日号掲載)

[対都請願の論点⑥]水道水のPFAS汚染による健康調査を実施せよ

 多摩地域をはじめ東京都内において、水道水用の井戸水から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)が検出された。米国科学アカデミーの指標では、7種類のPFASの合計値が血中20/㎖を超えると腎臓癌、精巣癌、脂質異常症、甲状腺機能、潰瘍性大腸炎の検査をすること、妊婦の被曝の軽減と妊娠高血圧症候群のスクリーニングを提示している。
 東京都水道局は現在、地下水からの一部取水停止などの善処措置を採っているが、2022年から2023年にかけて、「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」が住民の血中濃度を調査したころ、対象者の約46%がリスク値を超過していることが判明した。
 分析を担当した原田浩二氏(京都大学准教授)は、PFASを長年に渡り水道水から摂取した可能性や、地下水の上流にある横田基地が汚染源である可能性を指摘している。

国の取組みは不十分 都はイニシアチブを発揮せよ

 2024年2月、内閣府食品安全委員会は、「有機フッ素化合物(PFAS)の食品健康影響評価(案)」を発表した。その内容は驚愕することに、アメリカ環境保護庁(EPA)、欧州食品安全機関(EFSA)と比較して、極めて多い数値を摂取許容量とするものだった。EFSAが2020年に定めた許容摂取量は、体重1㎏に対してPFOA、PFOS、PFHxS、PFNAの4種類の合計で0・63であるが、評価(案)は2物質の合計で体重1㎏に対して40であり、実に60倍超の基準だ。
 5月末、国連人権理事会のビジネスと人権作業部会は報告書を公表し、住民が4つの有害なPFAS化学物質にさらされていることを示す学術研究があるにもかかわらず、血中濃度の大規模な調査を行わないなど日本政府の取り組みが不十分だと指摘した。協会は、2025年度対都請願において、東京都独自にでも健康調査を実施することなどを求めたが、「国の動向を見守りたい」と回答するに留まった。

横田基地で再度PFAS漏出事故

 10月3日に防衛省北関東防衛局が、米側からの情報として、横田基地所在自治体の東京都と福生市、羽村市、瑞穂町、立川市、武蔵村山市、昭島市に漏出事故を伝えた。
 基地内の消火訓練場の貯水池で2024年8月30日、豪雨により約4万7000ℓのPFAS汚染水が周辺のアスファルト上にあふれ、雨水溝に流入、基地外に流出した可能性が高いとの内容であった。10月16日には、福生市につながる排水溝から流出し、多摩川に流れ込んだ疑いがあることが追加報告された。
 横田基地では以前も漏出事故があったが、米軍が基地外へのPFAS流出を認めるのは初めてだ。東京都等7自治体による協議会は、発生から情報提供まで1カ月以上かかった点を「住民の不信感につながりかねず、極めて遺憾」と指摘している。協会は、東京都による早期の横田基地への立ち入り調査を求めるとともに、健康調査、農林水産物への影響調査の実施についても粘り強く働きかけていく。

(『東京保険医新聞』2024年11月25日号掲載)