【シリーズ】どうなる!?これからの医療・介護④「企業が群がる甘い蜜 セルフメディケーション」

公開日 2014年10月15日

図 予防・健康管理サービスの活用

 社会保障制度改革国民会議では健康寿命の延伸は重要な課題として位置付けられていた。「稼ぐ力」をキーワードとする日本再興戦略や健康・医療戦略を見ると、セルフメディケーションの名の下、健康寿命延伸の担い手は産業や市場である。

 医療の市場化戦略を考えるのは首相官邸と、日清食品社長、日本経団連副会長、コナミスポーツ社長、タニタ社長、そしてテルモやオムロンヘルスケア社長などを委員とする次世代ヘルスケア産業協議会(経済産業省)だ。

 同協議会がまずとりかかったのは、慢性期医療費9.8兆円(高血圧性疾患、脳血管、心疾患、糖尿病)を予防・健康管理サービス産業へ引き込むこと。薬局等での自己採血による血液検査が解禁されたのは記憶に新しいが、これは2013年の臨時国会で成立した産業競争力法9条の「グレーゾーン解消制度」によって事前に法的問題がないことが確認されたためだ。

 当然ながら公的保険外サービスは利用者が自分で買わなければならない。同時に、医療用医薬品を一般用医薬品に切り替える「スイッチOTC」が進められている。自己責任の健康チェック・服薬によって、軽症患者は医療機関に訪れなくなるだろう。企業の儲けを阻害する「町のお医者さん」は不要なのである。

 また、自己採血簡易検査事業を行う「健康ライフコンパス」はHPに公開されたプライバシーポリシーによると「入手した個人情報はグループ会社との間で共同利用する」としている。同社は三菱ケミカルホールディンググループの一員である。利用者の検査データを本人の健康管理以外の目的で利用されるのではないかという懸念も拭えない。

 健康産業の市場化は資金面でも国のバックアップを受ける。地域経済活性化支援機構という半官半民の株式会社が「次世代ヘルスケア事業支援ファンド」を創設し、新たなヘルスケアサービスを行う事業者に対して出資、経営人材を供給する他、政策金融によるヘルスケア産業創出融資制度なるものも検討されている。

 日頃から健康管理を意識付けることは重要であるが、健康格差をもたらしているのは社会的、経済的格差やストレス、幼少期の発達、社会的排除、労働・失業、社会的支援の欠如、食品、交通等、いわゆる「健康の社会的決定要因」であることは自明となっている。

 その解決に背を向け、社会的・公的責任をかなぐり捨て「儲け」のために医療や健康を企業に売り渡そうとするのがセルフメディケーションである。

(『東京保険医新聞』2014年10月25日号掲載)

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