【シリーズ】どうなる!?これからの医療・介護⑥「健康・予防インセンティブ 健康犠牲の医療費抑制策」

公開日 2014年11月25日

 社会保障制度改革国民会議報告書に記載された「健康維持増進」と連動して、安倍政権は、新成長戦略(日本再興戦略2014年6月)にも「個人・保険者に対する健康増進、予防へのインセンティブ」を位置付けた。

 新成長戦略を受け、厚生労働省は10月15日の医療保険部会でこれらのテーマを議論。特定健診受診の有無や健診結果数値など一定の基準をクリアしたり、健康・予防に取り組んだ被保険者に対して、健康グッズなどと交換できるヘルスケアポイントの付与や、現金給付等の取り組みを普及させることが提案された。

 さらに、新成長戦略の推進を担う産業競争力会議で2014年3月に出された増田寛也主査資料では、健康維持増進に対する各人の取り組みや、喫煙の有無などに応じて保険料に差を設けることも検討されている()。

表 増田寛也主査資料(産業競争力会議2014年3月)で示された個人インセンティブの基準例

・特定健診受診の有無 喫煙の有無(あるいは禁煙セミナー参加の有無)
・運動習慣(運動プログラム参加の有無)
・本人や家族の医療費(健康診断の受診を条件)
・健康診断における有所見率
・生活習慣病の罹患率
(留意点)
・強制ではなく、意欲ある保険者が自発的に選択できるしくみとする。
・保険料等増減は、各保険者で財政上中立させる。
・既往症など個人の健康状態に基づく不当な差別につながらないようにする。

 医療保険部会ではヘルスケアポイントはまだしも、現金給付には「受診抑制を招きかねない」、「保険料に差を設けることは被保険者の理解が得られない」と否定的な意見が相次いだ。

 そもそも、各人の健康増進の取り組みや喫煙の有無などで保険料に差を設けることは、疾病のリスクに応じて保険料を設定する民間保険と同様のしくみを医療保険に持ち込むことだ。これはすべての国民に医療を保障するために強制加入となっている社会保険制度になじまないことは明らかだ。

 政府はさらに保険者に発破をかける。2015年度からデータヘルス計画を策定させ、後発医薬品の使用促進や糖尿病重症化予防事業、訪問薬剤師による残薬管理などを実践させる。また健診・保健指導実施率によって、各保険者から後期高齢者医療制度への支出金を変動させるしくみも2015度から本格的に始動する。

 国・都道府県は医療適正化計画を5年サイクルで策定しているが、特定健診・保健指導実施率、メタボ該当者・予備軍の減少率目標、平均在院日数短縮目標、後発医薬品普及目標などは、これまで具体的な数値は任意記載とされていた。それを必須記載事項に格上げし、これも実践させるつもりだ。

 このような政策の川上・川下全体をみれば、アベノミクスによって、行政・健康保険者・国民が一体的に飽くなき医療費抑制策に巻き込まれていることがわかる。現金給付のように受診抑制を助長したり、「各人の取り組み」で保険料に差を設けるなど、社会保険制度を破壊する愚策を許してはいけない。

(『東京保険医新聞』2014年11月25日号掲載)

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