対都請願の論点(2019年度東京都予算案)

公開日 2018年12月21日

対都請願の論点(1)―感染症:風疹対策待ったなし

•首都圏を中心に風疹の感染拡大

 8月29時点の風疹患者273人のうち、257人(94%)が成人であり、その内訳は男性215人、女性58人と、男性が女性の3・7倍多い。特に、風疹含有ワクチンを接種する機会がなかったために風疹に対する抗体が低い30~40歳代は男性患者全体の66%に達している。

 本年3月に台湾から沖縄への旅行者を発端とした麻疹の拡大の際も感染者の多くはこうした抗体価の低い世代であった。

 協会は都福祉保健局との懇談において、「30~50歳代のすべての成人男女に対するMRワクチン接種の実施」を重点項目として要望。抗体検査をしなくてもMRワクチンを接種する費用を助成することなどを求めた。

 また、協会は9月7日、風疹・麻疹に関する「特定感染症予防指針の一部改正案」のパブリックコメント募集に対し、①「2020年までの時限措置で抗体価の低い世代(30~50歳代)に対して抗体検査を行わずとも、全額公費によるMRワクチンの臨時接種を実施すること」を指針改正案に明記すること、②繰り返されるワクチン供給不足の実態・原因を分析・評価し、ワクチン供給体制の問題点を具体的に明らかにし、ワクチン供給不足への対策を明記すること、を求める意見書を提出した(>>風疹麻疹)。

180915_02_対都請願①風疹患者数

180915_02_対都請願①風疹流行中

(『東京保険医新聞』2018年9月15日号掲載)

対都請願の論点(2)―国保の広域化、85%の自治体で保険料上昇

•法定外繰入は必要不可欠

2017年12月策定の「東京都国保運営方針」は、区市町村が保険料(税)の負担緩和を図るために実施している「法定外一般会計繰入」を、「解消・削減すべき」としている。

180925_01_対都請願②国保・円グラフ

2018年度も多くの区市町村は独自に法定外一般会計繰入を実施しているが、それでも保険料(税)は上昇している。法定外一般会計繰入の大幅な削減を行った場合、いっそうの保険料(税)値上がりを招き、被保険者に大きな影響を与える。協会は国保運営方針に法定外一般会計繰入金の必要性を明記し、「解消・削除すべき」との記載を削除するよう東京都に求めている。

•保険料を上昇させない財政措置を

東京都は保険料の急激な上昇を抑えるために、激変緩和措置を実施しているが、国保加入者一人当たりわずか数百円足らずの助成額であり、それも6年度目で終了する計画となっている。
このままでは保険料負担が年々増加することは避けられない。協会は、激変緩和措置を見直し、保険料を上昇させない財政措置の仕組みを検討するよう東京都に強く要請した。

(『東京保険医新聞』2018年9月25日号掲載)

対都請願の論点(3)―マル子の所得制限

181005_02_対都請願③子ども医療費の窓口負担・所得制限等の現状一覧2
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•国立市・多摩市が撤廃、調布市も小学3年まで廃止

新たに調布、国立、多摩の3市がマル子の所得制限を撤廃、または撤廃を決めた。

調布市は2017年10月から、マル子の「小学3年修了前」までの所得制限を撤廃した。国立市は2018年10月から「小学4年から6年」までの児童について所得制限を撤廃する。同市は小学3年までの所得制限は2015年10月に撤廃済みのため、小学生までマル子の所得制限全廃が実現する。多摩市は2019年4月から撤廃する予定だ。

マル乳は全都で所得制限なしの全額助成が実現しており、外来・入院(食事療養費を除く)の窓口負担はない。しかしマル子は、23区が外来窓口負担の自己負担分200円を独自に全額助成しているのに対し、三多摩地区では7自治体(武蔵野市、府中市、調布市、日野市、日の出町、檜原村、奥多摩町)が助成しているのみだ。

またマル子は、全区が所得制限を撤廃しているが、三多摩26市・3町・1村のうち、所得制限を撤廃しているのは14自治体(八王子市、武蔵野市、青梅市、府中市、調布市、国分寺市、国立市、福生市、多摩市、羽村市、西東京市、日の出町、檜原村、奥多摩町)のみである。

9月6日の都福祉保健局との懇談で、協会は多摩地域の格差解消のため、外来窓口負担200円を撤廃し、都内全域で子ども医療費を無料化するよう要望した。

(『東京保険医新聞』2018年10月5日号PR版掲載)

対都請願の論点(4)―PM2.5の環境基準達成を

米国・WHOより低い基準東京では未達成

大気中には、人の健康や生活環境に影響を及ぼす様々な物質が存在する。協会や患者会からの要請も受け、東京都はこれまで工場・事業場への対策やディーゼル車の排出ガス規制などを実施し、都内の大気環境の改善につながっている。

PM2.5は、非常に小さいため呼吸器系の奥深くまで入りやすく、大気中の濃度が上がると、短期暴露による肺機能の低下や呼吸器症状が増加し、入院・救急受診が増加する等の影響が指摘されている。

PM2.5の環境基準は、長期基準(年平均値15μg/立方メートル以下)と短期基準(日平均値35μg/立方メートル以下)とがあり、両方の基準を満たすことで環境基準の達成となる。

東京都はPM2.5の環境基準が設定された2009年以前から大気中のPM2.5濃度を測定している。2016年度の環境基準達成率は98%と基準が設定されて以降最高であり(グラフ)、東京都は大気環境中のPM2.5濃度が改善傾向にあるとしている。しかし、2018年6月29日の大気中微小粒子状物質検討会に提出した「中間まとめ(案)」では、PM2.5について、「環境基準の達成率は年度ごとに大きく変動している。年平均値を現在よりも低減させることで、安定的に環境基準を達成するような状況にすることが求められる」「PM2.5および光化学オキシダントの環境基準は未達成であり、大気環境の残された課題」と評価し、「2024年までにPM2.5の環境基準達成率を100%とする」という政策目標を達成するために、いっそうの対策が必要としている。

世界では、世界保健機構(WHO)が、2005年に年平均値10μg/立方メートルのガイドラン値を示した。大気中のPM2.5濃度がこれ以下であれば健康への影響が全くないとは言えないが、先進国の大都市圏で達成可能で、達成によって健康へのリスクの効果的な減少が期待できるとしている。また、米国では2013年に PM2.5の環境基準を年平均値15μg/立方メートルから日本よりも厳しい12μg/立方メートルに改定した。

協会は、PM2.5の発生をさらに減らし、東京都の政策目標である「2024年までにPM2.5の環境基準達成率100%」を後押しすることで都民の健康を守れるよう、都に対して、PM2.5について国の環境基準よりも厳しい基準を策定することを求めている。

181015_02_対都請願④環境基準達成率の推移

181015_02_対都請願④PM2.5達成率

PM2.5の環境基準
・日本   15 μg/立方メートル
・WHO    10 μg/立方メートル
・米国   12 μg/立方メートル

(『東京保険医新聞』2018年10月15日号掲載)

対都請願の論点(5)―非常用電源 点検費用の助成を​

災害時の非常用電源を確保することは、患者のいのちに関わる非常に重要な課題である。2018年6月18日の大阪北部地震では、国立循環器病研究センターが被災し、電源供給が不安定な状態が続いた。このため厚労省は、全病院の非常用電源の調査を検討している。

非常用電源は、民間病院では重油を使用するのが一般的だが、重油は長期保存が難しい。協会は、民間病院に非常用電源に係る助成を行うことを求めている。

総務省消防庁の「消防用設備等点検報告制度のあり方に関する検討部会」が2015年7月から開催されている。そのなかで、自家発電設備の点検基準の見直しが決まり、2018年6月1日に施行された。これによれば、①負荷運転に代えて行うことができる点検方法として内部観察等を追加、②負荷運転及び内部観察等の点検周期を6年に1回に延長する、③原動機にガスタービンを用いる自家発電設備の負荷運転は不要、④換気性能点検は負荷運転時ではなく、無負荷運転時等に実施するように変更するなどの改正がされ、一定の改善が見られる。しかし、負荷運転を実施する場合の助成については言及されていない。負荷試験の費用は、燃料代、人件費、検定業者への費用等を含めれば数百万円かかるとも言われており、医療機関の負担は甚大だ。

協会はこの実態をふまえ、災害時の非常用電源に係る助成を行う際には、負荷試験に係る助成も合わせて行うよう要望している。

(『東京保険医新聞』2018年10月25日号掲載)

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